作家・凪良ゆうも唸った『インサイド・ヘッド2』の巧みなストーリー「実はとても覚悟のいる物語展開」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
作家・凪良ゆうも唸った『インサイド・ヘッド2』の巧みなストーリー「実はとても覚悟のいる物語展開」

インタビュー

作家・凪良ゆうも唸った『インサイド・ヘッド2』の巧みなストーリー「実はとても覚悟のいる物語展開」

『トイ・ストーリー』(95)や『ファインディング・ニモ』(03)など、3DCGアニメーションの先駆者として業界を牽引してきたピクサー・アニメーション・スタジオ。そして、この度2018年の『インクレディブル・ファミリー』を超え、ピクサー史上最大となったばかりか、アニメーション映画史上最大のヒット作となったのが『インサイド・ヘッド2』(公開中)だ。

アニメーション映画史上No.1の興行成績を達成した『インサイド・ヘッド2』
アニメーション映画史上No.1の興行成績を達成した『インサイド・ヘッド2』[c]2024 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

MOVIE WALKER PRESSでは、映画監督や作家など、多種多様な分野で活躍する人々に、あらゆる視点から本作をひも解くレビュー連載を実施。これまでかつての誘拐犯と被害女児の禁断の出会いを繊細に綴った「流浪の月」、人生における複雑な人間関係や自己発見がテーマの「汝、星のごとく」など、緻密な心理描写で魅せる小説家・凪良ゆうは、“感情”に真っ向から向き合う本作をどう観たのか、感想を語ってもらった。

「流浪の月」「汝、星のごとく」など巧みな心理描写で知られる作家・凪良ゆう
「流浪の月」「汝、星のごとく」など巧みな心理描写で知られる作家・凪良ゆう

「あまりにも私自身にも覚えのある感情がたくさんあり、いたたまれなくなったほど(笑)」

人間の持つ感情を擬人化して見せるユニークな切り口で、少女ライリーの成長を綴った前作『インサイド・ヘッド』(15)はアカデミー賞の長編アニメーション賞を獲得。その続編となる本作は前作同様、ライリーの頭のなかをつぶさに描いていく内容だが、今回はライリーが高校入学直前という心が変化する時期に入ったから、大変な感情の嵐を経験することになるというストーリー。いままで彼女の頭のなかにあったヨロコビ、カナシミ、イカリ、ムカムカ、ビビリという感情キャラクターに加え、シンパイ、イイナー、ダリィ、ハズカシという新感情キャラクターが増加。その結果、ライリーはいままでに見せたことのないような行動をとるようになっていく。例えば自分らしさを隠して、無理矢理他人と意見や考えを合わせようとしたり、あえて親友と距離を置いたり。シンプルにいえば、アイデンティティを確立するための旅路を見せることになるのだ。

前作で監督を務めたピート・ドクターは製作総指揮に回り、今回は監督に『モンスターズ・ユニバーシティ』(13)のストーリー・スーパーバイザーを務めたケルシー・マンを起用。現代のティーン層らしいリアルな会話などが用意され、続編ながら心機一転した新感覚の作品に仕上がっている。「とてもおもしろく作品を拝見しました。前作では自分の感情に振り回されていた幼いライリーが少し大人になり、複雑な感情が芽生えてきます。“いい子”であろうとする自我と、他者と社会を意識することにより“いい子でいられない”自分自身との間で揺れ動く。それはまさに思春期の訪れですよね。ライリーの感情の進化と共に、観る私たちの中に生じる“これは身に覚えがある!”という心に刺さる深さもまた、前作より進化していると感じました。あまりにも私自身にも覚えのある感情がたくさんあり、途中でいたたまれなくなったほどです(笑)」。と、この映画を観た感想をそう表した凪良。

【写真を見る】「他人とは思えませんでした(笑)」凪良ゆうがシンパシーを感じた新キャラクター、シンパイ(『インサイド・ヘッド2』)
【写真を見る】「他人とは思えませんでした(笑)」凪良ゆうがシンパシーを感じた新キャラクター、シンパイ(『インサイド・ヘッド2』)[c]2024 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

特に今回は前作以上にシンパシーを感じる部分が多かったと話す。「私自身は悲観的なところがある人間なんです。だから前作ではカナシミをまるで自分の分身のように感じていましたが、今作ではシンパイが他人とは思えませんでした(笑)。なので見ていて共感性羞恥を感じるほどに揺さぶられてしまいました」。

劇中には、自分の大事なメモリーが入った“思い出ボール”というのが登場する。では共感性羞恥を感じたという凪良には、どんな“思い出ボール”があるのだろうか?「劇中に少し出てきたような“暗い秘密”が多い人生なんですよ。いまでも思い出すと布団をかぶって叫びたくなることはたくさんあります(笑)。幸せな記憶では、やはり本屋大賞をいただいた時の記憶がなにより忘れ難い“思い出ボール”になっていると思います。でもいい思い出も悪い思い出も、どんな“思い出ボール”もいまの私を形作るものですから、認めてあげなくちゃいけないですね」。

頭のなかの貯蔵庫に溜まっていくたくさんの“思い出ボール”(『インサイド・ヘッド』)
頭のなかの貯蔵庫に溜まっていくたくさんの“思い出ボール”(『インサイド・ヘッド』)ディズニープラスで配信中 [c] 2024 Disney/Pixar.


失敗も大事。成功も大切。すべての体験、そのひとつひとつがいまの“あなた”という人間を形作っているのだ。だからこそ毎日毎日を大切に生きていかないといけない。そういうことを決して声高にではなく、エンタメという風呂敷で優しく包み、老若男女誰にでもわかるようにおもしろく語ってくれるところがピクサー映画のいいところ。そういうピクサーの長所がしっかり活かされたのが本作なのだ。

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■凪良ゆう
1973年、滋賀県生まれ。2007年作家デビュー。著書に、ドラマ・映画化されたBL小説「美しい彼」シリーズや「神さまのビオトープ」、初の本屋大賞を受賞し、2022年に実写映画化された「流浪の月」、2年連続本屋大賞ノミネートを果たした「滅びの前のシャングリラ」、史上2人目の2度目の本屋大賞受賞を果たした「汝、星のごとく」など。
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