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作家・凪良ゆうも唸った『インサイド・ヘッド2』の巧みなストーリー「実はとても覚悟のいる物語展開」

インタビュー

作家・凪良ゆうも唸った『インサイド・ヘッド2』の巧みなストーリー「実はとても覚悟のいる物語展開」

「私もいまでも“自分らしさ”を探し続けているところがあります」

今回登場した新しい感情キャラクターたちを、凪良はこう分析する。「大人の感情として、シンパイは未来を予測するところから生まれますし、イイナーは他者を比較するところから生まれる感情ですよね。ハズカシは人の目を気にすること。初期のヨロコビたちが自分の内的な感情だとすると、つまり今作の感情は、社会との接点が増えることから生まれてくるもの…といえるのではないでしょうか」。確かに人は年を取るほどに、複雑な感情を帯びていく。子どものころにはなかった“感情をもて余す”というような感覚も、大人になってから芽生えてくるものだ。

“大人の感情たち”として登場する、シンパイ、イイナー、ダリィ、ハズカシ(『インサイド・ヘッド2』)
“大人の感情たち”として登場する、シンパイ、イイナー、ダリィ、ハズカシ(『インサイド・ヘッド2』)[c]2024 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

ちなみに凪良なら、どういうキャラクターを付け加えたいと思うのか?「それは難しい質問ですね。例えば先程述べたような“共感性羞恥”とか“いたたまれない”、あとは“せつない”などの感情ですかね。ひと言では言い表せないような感情をどう描くかを考えてみたいです」。

そういった複雑な感情を、いまも持て余していると凪良は言う。「『人間は遺伝子の乗り物である』という有名な言葉がありますが、小説家である私からすると『人間は感情の乗り物である』という言葉の方がしっくりきます。ライリーは感情に振り回されていますが、それは大人になったいまの私でも同じこと。かつての私は大人になるということは、もっと上手に感情をコントロールできるようになることだと思っていたのですが、それはそう簡単ではなく。“そのままの自分を愛する”というよりは、“ダメなところも含めて自分なんだ”と認めることが成長なのでしょうね」と語った凪良。

これまでにない“感情の嵐”で自分らしさを失っていくライリー(『インサイド・ヘッド2』)
これまでにない“感情の嵐”で自分らしさを失っていくライリー(『インサイド・ヘッド2』)[c]2024 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

映画の中では「成長するってこういうことなのかも。喜びが、少なくなる」という台詞に、「大人ってなんだろう」と思わず考えさせられてしまったとか。つまり「誰もが持っている感情の体験」の物語であるから、これだけのヒットにつながったのではないか。「先ほど言った“感情の数が増える”だけではなく、“それぞれの感情たち”の持つ感情も複雑さを増してきていますよね。例えば作中でヨロコビが喜びだけを感じているわけではなく、涙を流すシーンがあります。それもまた成長のひとつなのかもしれません。私もいまでも“自分らしさ”を探し続けているところがあります」。

「この物語の展開が、実はとても覚悟のいることだというのがわかるんです」

司令部に突然鳴り響くブザー!(『インサイド・ヘッド2』)
司令部に突然鳴り響くブザー!(『インサイド・ヘッド2』)[c]2024 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

ちなみにピクサーが大事にしているのは、ストーリーとキャラクター。これはどのピクサーのアニメーターに聞いても返ってくる言葉だった。自作で様々な人間の心理描写に長けた才能を見せてきた凪良は、今回のストーリーテリングをどう評価しているのか。「いい意味で王道の物語展開であるとも感じています。昨今の物語に多い驚愕の結末とか、どんでん返しといったものがあるわけではない。これは“感情たち”の物語であるからこそ、ライリーが抱いている感情を、ひたすら丁寧に追いかける物語を作り上げたのだろうなと感じました。私も『汝、星のごとく』という作品を書いている時に、ついつい奇をてらう展開を入れたくなったのですが、そこをグッと我慢して主人公たちの感情の深度をあげることに意識を向けました。ですから、この物語の展開が、実はとても覚悟のいることだというのはわかるんです」。

特に今回はキャラクター性に特化した物語ではないと思っているそう。「ライリー自身に感情移入することもたくさんあるのですが、それよりは彼女が持っている“感情たち”こそが、誰しも覚えがある心の動きですから共感しますよね。だからこの映画は多くの人たちのハートに切り込んでいくのではないでしょうか。いわゆるキャラクターの物語ではなく、先程も言ったように“誰もが持っている感情の体験”の物語なのだと思います。絵柄やキャラクター性から、子ども向けと思われがちなピクサー作品ですけれども、この映画は大人の感情に耐えうる、いえ、大人にこそ刺さるものだと感じました」。


ライリーの大切な思い出たちが流れ着く、幻想的で美しい信念の泉(『インサイド・ヘッド2』)
ライリーの大切な思い出たちが流れ着く、幻想的で美しい信念の泉(『インサイド・ヘッド2』)[c]2024 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

そう力強い言葉をくれた。実際にどんな身に覚えのある感情の体験ができるのかは、是非あなた自身の目で確かめていただきたい。

構成・文/横森文

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■凪良ゆう
1973年、滋賀県生まれ。2007年作家デビュー。著書に、ドラマ・映画化されたBL小説「美しい彼」シリーズや「神さまのビオトープ」、初の本屋大賞を受賞し、2022年に実写映画化された「流浪の月」、2年連続本屋大賞ノミネートを果たした「滅びの前のシャングリラ」、史上2人目の2度目の本屋大賞受賞を果たした「汝、星のごとく」など。
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