映画制作における労働環境の改善を目指す組織「映適」、初年度記者報告会が開催「一番のコンセプトは続けていくこと」
2023年4月に、映画制作における適正な就業環境や取引環境を実現するために発足した「映適」(日本映画制作適正化機構)。運営開始から1年以上が経過した7月26日、東京都内で映適初年度記者報告会が行われ、当機構の理事長、島谷能成(日本映画製作者連盟 代表理事)、理事の浜田毅(日本映画撮影監督協会 代表理事)、新藤次郎(日本映画製作者協会 理事)らが、活動の総括と展望を明らかにした。
「映適」は、映画制作を志す人たちが安心して働ける環境を作るために、映画界が自主的に設立した第三者機関。作品ごとに基準に適合しているかどうか審査を実施し、認定する「作品認定制度」の確立と、「スタッフセンター」の支援業務による映画制作現場の環境改善、スタッフの生活と権利の保護及び地位向上を図ることを目的としている。撮影時間や休憩時間のルール、安全やハラスメントに関する体制整備が行われている作品に対して審査をし、ガイドラインに基づいて制作された作品には、適正な制作が行われた認定の印となる「映適マーク」が与えられる。また「スタッフセンター」はスタッフを守るための団体となり、登録することで、プロダクションとの受注・請求のやり取りや、映適ガイドラインに沿った契約条件の取り決めを外部クラウドサービス上で一括して行うことができたり、希望する人には「映適スタッフセンター労災」への加入が可能。そのほかスタッフ募集の情報を受け取れたりと、あらゆるメリットが用意されている。
2023年4月1日から2024年7月25日までの集計によると、映適作品認定制度の申請本数は84本(審査中の作品を含む)、認定作品数は31本。「映適スタッフセンター」の登録者数はスタッフ177人、プロダクションは46社となった。「映適」のスタートまでには、制作発注者やプロダクション、フリーランスのスタッフ集団などあらゆる人々による議論が重ねられ、「これが成立したのは奇跡に近いと思っています」とこれまでの道のりに思いを馳せた島谷。「一番のコンセプトは続けていくこと」と力強く語った。
島谷が現在の課題としてまずあげたのは「財政の問題」だ。作品認定の審査には膨大な資料の精査や整理が必要となり、スタッフセンターの運営にももちろんさまざまな経費がかかる。「映適」は主に、申請された作品からの申請料と「映適会員費」、賛助会員の協力費によって運営されているという。「映適会員費」は、作品認定制度の申請作品に参加した登録スタッフに、仕事のギャランティの額面1パーセントを納めてもらうもの。島谷は「健康的な状態で初年度を終えられた」と切りだし、「それはいろいろな援助が入ったうえでの話。3年くらいで独立できるような、いまの映倫のような組織にしていきたいと思っていますが、まだまだそこまでは辿り着けていない。今年2年目。3年目でどこまでいけるか。どこまで財政基盤をきちんとできるかは、大きな課題のひとつ」だと話した。
また、撮影現場の映適ガイドラインについても課題がある。ガイドラインには、撮影時間(撮影準備から撮影終了まで、休憩・食事を含む)が11時間以内であること、準備・撤収を含む1日の作業時間は13時間以内とすることなどが明記されている。島谷によると「撮影が何時間、インターバルは何時間、休日はどうするなど、さまざまな労働条件はいまのままでいいのかという検討会議を続けている」とのこと。作業時間13時間以内というのは「過労死ラインでは」との見方もあるが、浜田は「映画の現場はずっと毎日働いてというよりは、撮影の契約のなかでやっているため、いまはそのガイドラインで走っています。ガイドライン研修委員会で、見直すか、見直さないかも考えています。現場の意見を反映していきたい。もちろんいろいろな意見、現場があって、そのデータを集めています。もう少し、現場の声を聞いてみたい」とこれからも話し合いを重ねながら、進んでいきたいと話していた。
取材・文/成田おり枝