ついに完結!ディズニープラス「七夕の国」映像化困難な作品をどのように実現させたのか?
ディズニー公式動画配信サービス「ディズニープラス」の「スター」にて独占配信中のスター オリジナルシリーズ「七夕の国」。本作のメイキングとともに作品を振り返る撮影の裏側が解禁となった。
「寄生獣」や「ヒストリエ」などで人気を博す岩明均が、1996年から1999年にかけて小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」にて不定期連載したSF漫画「七夕の国」。岩明の作品の中でもカルト的人気を誇り、その壮大なスケールと刺激的な表現から「映像化困難」と言われ続けていた“怪作”が、「ガンニバル」などの話題作を手掛けるディズニープラス「スター」にてドラマシリーズ化された。
“あらゆる物に小さな穴を空ける”というなんの役にも立たない超能力を持つ平凡な大学生、南丸洋二、通称ナン丸を、「ドラゴン桜」「どうする家康」など話題作への出演で躍進を続ける若手俳優細田佳央太が演じ、監督は「大豆田とわ子と三人の元夫」や『クレイジークルーズ』(23)でメガホンを取った瀧悠輔が務める。次第に心を通わせていく女性、東丸幸子役に藤野涼子、幸子が恐れる兄、東丸高志役に上杉柊平、ナン丸とともに球体の謎を追う大学のゼミの助教授、江見早百合役に木竜麻生、事件直前に姿を忽然と消してしまうナン丸が通う大学の教授、丸神正美役に三上博史、そして、多くの謎を持ち、目深に帽子を被る長髪の男、丸神頼之役を山田孝之が怪演している。
先日8月8日に最終話が配信され、完結を迎えた本作。今回解禁となったのは、完結を記念して、キャスト&監督陣がメイキングとともに「七夕の国」を振り返りその思いを語る特別映像。原作が連載されたのは1996年から1999年。監督やプロデューサーはリアルタイムでその衝撃に触れたというが、主演の細田をはじめ、藤野涼子や上杉柊平といった若手俳優陣は、連載が終了してから作品に触れたという。「あまり時代感を感じなかったというか、現代風にアレンジするとなっても違和感はないと思った」と細田が話すように、時代を超えても普遍的な魅力を放つ漫画「七夕の国」。藤野は作品を読み終わるとその衝撃に脱力をしてしまったんだとか。また、学校の図書室で原作と出会ったという上杉は、当時の作品への印象と、大人になってから読み返したときの印象が大きく違ったようで、作品のもつ複数の魅力に触れたそうだ。
一方、連載当初から原作のファンであった監督とプロデューサーの実写化への思いは相当に強かった。「脚本自体も原作からそのまま本に起こしたよう」と細田が感じたように、丁寧に作りあげられた脚本は、配信が開始されると、原作ファンからの評価を多く集めた。特に瀧が意識したのが”原作のトーン”。「ダークなトーンとナン丸のキャラクターのライト感。マイナーな空気感をなくさないように心掛けた」という。連載当初からのファンである監督とプロデューサーが、丁寧に作り上げていったストーリーの上で活躍するのは個性的なキャラクターたち。その強い個性を実写として表現するうえで、役者陣はキャラクターのもつ要素を多面的に捉えていった。
主人公であるナン丸は“役に立たない超能力”を持つ平凡な大学生。楽観的で他人に流されやすい性格は、細田の性格とはすこし離れていたというが、共演シーンの多かった藤野が話すように「人を包み込むような優しさや、人の立場になり行動を起こしてくれる人という要素は似ている」という。他人へのやさしさという部分のつながりが、愛される主人公という作品において非常に重要なポイントを押さえることに成功した。その藤野が演じる東丸幸子は、丸神の里に住み、悪夢に苦しむという役どころ。里に囚われた女性の苦悩の中に隠れる柔和な性格を、撮影現場で監督と引き出していった。さらに、幸子の兄、東丸高志を演じた上杉は、虚勢を張る奥で常に持つ弱さを意識して撮影に挑んだという。
そして、本作の登場人物を語るうえで外すことが出来ないのが、山田演じる頼之である。●の力で日本中を恐怖に包む謎の男である頼之は、特殊メイクを施すことで山田の素顔が一切見えない風貌での芝居となった。顔の表情を演技に用いることが難しい中では演じきる山田の姿は、主演の細田をはじめ共演したキャスト陣にも大きな感銘を与えたという。監督は「全員が飲まれた瞬間がある。凄い奇跡を見た。化学反応が巻き起こっていく2~3週間だった」と当時の事を振り返るが、本編に登場する山田演じる頼之を見ると、その言葉が全く大袈裟ではないことに気付くだろう。個性的なキャラクターをキャスト陣が十二分に理解し解釈することで、説得力が増し、より魅力的なものになっていった。
刺激的なストーリーと、魅力的なキャラクターが揃った中で行われた撮影は、VFXの技術を最大限に活かした壮大なものだったという。三上は「『スター・ウォーズ』を見ていて大変だろうなと思っていたことが、自分に降りかかってきた」と語る。グリーンバックを使用しての撮影、触れたもの全てがエグられる●(まる=謎の球体)が登場するシーンは、目に見えないものを撮り、その前で役者は演技をするという、難しさを孕んでいる。その中で監督と役者陣が言葉や模型などを通じてそのイメージを共有していく。本映像ではその一部が映されているが、例えば山田と上杉が監督とともに、●の大きさや進む速度などを詳細に話し合っていく様子は、役者陣とスタッフに生まれた厚い信頼関係が、作品の完成度を高めていくことを感じさせる。
それぞれが丁寧に作りあげていくことで完成した「七夕の国」は、配信開始とともに大きな話題を集めていった。物語が進むにつれて明かされる謎の数々と、すべての事件の首謀者である頼之の目的。そしてナン丸と頼之、同じ能力をもつ二人が選ぶ全く異なる選択が見る者の心を引き込んで離さないが、このナン丸と頼之を描くにあたり、監督は「二人の真ん中にいるのが日本人。ナン丸と頼之は日本人の両端にいるイメージ」で撮影したと明かした。このが、現実離れした作品ながら、感情移入させ、共感すら生むことができたのである。
原作を愛した監督とプロデューサー、そして役者陣による徹底したキャラクターの解釈、それらを具現化するための丁寧で壮大な撮影、そして見るものを共感させるキャラクター設定。随所にちりばめられたこだわりの数々が、「七夕の国」が大きな注目を集め、話題を呼ぶ由縁である。ついに最終話までが配信された本作。最終話まで鑑賞した方はこの映像をみて、まだ本作に触れていない方は是非この映像を見てから、是非この週末にイッキ見をして、「七夕の国」の沼にハマっていただきたい!
文/サンクレイオ翼