世界の映画祭に衝撃を与えた、北欧スウェーデンの知られざる迫害の歴史とは…?
人種や民族への差別は、映画や文学で多く登場するテーマ。だが、理想郷のイメージが強い北欧スウェーデンでも、民族差別があったことを知っている人は少ないだろう。映画『サーミの血』(9月16日公開)では、その知られざる迫害の歴史が明かされる。
“サーミ”は、北欧のラップランド地方でトナカイを飼い、独自の言語を持つ先住民族サーミ人のこと。1930年代、スウェーデンのサーミ人は、他の人種より劣った民族として差別されていた。自分たちの言語を禁止される一方、周りに「不潔」と罵られながらサーミ社会に閉じ込められ、さらに、裸で記録写真を撮られるなど、辛い仕打ちを浴びてきた。映画では、サーミ人の少女クリスティーナが、差別に抗い生き抜く成長物語が描かれる。
本作のためにその才能を見出された主人公を演じる新人レーネ=セシリア・スパルロクは、今もトナカイを飼い暮らしているサーミ人。繊細で豊かな表情を見せたその演技は、2016年の東京国際映画祭で、審査委員長のジャン=ジャック・ベネックス監督ほかに高い評価を受け、最優秀女優賞を獲得、世界の映画祭でも絶賛された。彼女の強い目ヂカラは、人種差別の愚かさを物語るように気高く神々しい。
監督のアマンダ・シェーネルもサーミ人の血を引いており、自身のルーツをテーマに本作を手掛けた。主人公の妹役ほか、他のサーミ人役も全員本物のサーミ人。劇中の民族衣装や小道具、トナカイの扱いなどはすべて正確に再現されている。痛々しい負の歴史を描く一方で、幻想的で雄大な自然の中で慎ましく営まれるサーミの暮らしはとても美しい。
偏見に負けず生きたクリスティーナの不屈の精神には、誰もが勇気と感動をもらえるだろう。人間の尊厳についても深く考えさせられる一作だ。【トライワークス】
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