女優に日記を書かせて役づくり!?世界が注目する新鋭・吉田光希監督が描きたかったものとは?
『症例X』(07)、『家族X』(10)、『トーキョービッチ,アイラブユー』(13)といった監督作で国内外の映画賞に輝く注目の若手実力派、吉田光希。舞台演出も手掛けるほか、今泉力哉監督作『サッドティー』(13)では、寡黙なDV男を演じ、強烈な存在感を発揮した。そんな多才な吉田が、3年越しの監督作『三つの光』(9月16日公開)でも、キャストを巻き込んだ“こだわりの演出”を貫いていると評判だ。
自宅でピアノ演奏を撮影し、動画サイトにアップロードを続ける保育士アオイ(小宮一葉)と、旦那と心が離れている専業主婦ミチコ(真木恵未)、歌うことへの意欲を失った歌手志望のアヤ(石橋菜津美)。抑圧された日常から逃れたいと願う3人は、マサキ(鈴木士)とK(池田良)という2人の男との楽曲制作により自分を解放していくが、次第に人間関係のバランスを崩し始める。
物語の舞台である倉庫街の音楽スタジオは、かつて監督が足を運んだ実在の場所。その場で感じた音を奏でることの喜び、人間同士の衝突などが、本作誕生のきっかけとなったという。
その後、キャストとのディスカッションを経て、それぞれの境遇や経験を脚本に反映。例えば監督は、撮影前にミチコ役の真木に“ミチコとして”ひと月以上日記を書き続けることを課した。書いていくうちに彼女が本当に追いつめられて発した「暇はあるけど自由がない」という言葉は、そのまま劇中でも使われている。
また、監督はアオイが泣き崩れるシーンを2日間こだわり抜いて撮影。マサキ役の鈴木とK役の池田との間には、劇中の2人を彷彿させる衝突が起きるなど、リアルな緊張感に包まれた撮影となった。
監督のパーソナルな体験に加え、キャストが自らを解放し、時にぶつかり合いながら作り上げた『三つの光』。希望と焦燥、依存と反発、嫌悪と憧れ。実は表裏一体な人間の様々な感情を、吉田監督は繊細な筆致であぶり出す。その圧倒的な描写力は、観る者の心を強く揺さぶる。【トライワークス】