意味深なデザインに惹きつけられる…総勢8名の『憐れみの3章』 キャラポスで注目したい、ランティモス組初参加俳優たち
第80回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞し、第96回アカデミー賞で主演女優賞を含む合計4部門に輝いた『哀れなるものたち』(23)に続く、ヨルゴス・ランティモスとエマ・ストーンによる最強タッグの最新作『憐れみの3章』(9月27日公開)。このたびストーン、ジェシー・プレモンス、ウィレム・デフォーら総勢8名のキャラクターポスターが解禁された。今回は折り紙付きの実力派俳優たちがひしめくなか、熱視線が注がれているランティモス作品初参加のメンバーに注目していきたい。
ランティモス監督ならではのユーモラスでありながらも時に不穏で予想不可能な、独創的世界を描きだす本作には、『ラ・ラ・ランド』(16)に続きアカデミー賞で2度目の主演女優賞を受賞したストーンをはじめ、デフォー、マーガレット・クアリーなど、世界的大ヒットとなった『哀れなるものたち』で壮麗かつ芸術的な、唯一無二の世界を作り上げた布陣が再集結。さらに、ホン・チャウ、ママドゥ・アティエ、ハンター・シェイファーら、新たな顔ぶれも加わった。
公開を翌週末に控え、本作から届いた豪華俳優陣8名のキャラクターポスターは、キャストたちの顔が仮面のように仕立てられたビジュアル。本作で描かれる3つの物語で、キャストたちがまったく異なるキャラクターを演じることへの意味深なメッセージを感じずにいられない。
ポスターでも大きなインパクトを残している、初参加組を紹介していこう。第1章で、ロバート(プレモンス)の妻サラ、第2章では、海難事故から奇跡の生還を果たしたリズ(ストーン)の同僚の妻シャロン、第3章ではエミリー(ストーン)が帰依するカルト集団のリーダー、オミ(デフォー)の妻アカを演じるホン・チャウは、マット・デイモン主演のSFコメディ『ダウンサイズ』(17)で演じた、片足を切断されたベトナム人政治活動家のゴック・ラン・トラン役が高く評価され、同作でゴールデン・グローブ賞助演女優賞にノミネート。その後、少年と男性の友情を描いた人間ドラマ『Driveways』(日本未公開)(19)で独立系の映画を称えるインディペンデント・スピリット賞で主演女優賞、主演のブレンダン・フレイザーが第95回アカデミー賞で主演男優賞を受賞した『ザ・ホエール』(22)で、同賞の助演女優賞にそれぞれノミネートし、その存在感を高め続けている。
チャウについては、ランティモス監督が『ショーイング・アップ』(23)での彼女の演技を観たことが、本作のオファーにつながったという。チャウは「(本作の脚本を)何度も読み返して、テーマがなんなのか考えようと思いました。それから一歩引いて、『いや、そんなことはしないで、ただこの経験を信じよう』と思ったんです。ヨルゴスの作品群には説得力がありますから、彼がどんな方向に進もうと、それはすばらしいものになるとわかります」と絶対の信頼があったことを明かす。ランティモス監督はチャウについて、「最後の物語で、ウィレムと一緒にリーダーを演じた彼女はすばらしかった。彼女の役に対する真剣な態度が大好きで、それがさらに愉快にさせるのです」とお互いの才能を讃えあった。ランティモス監督も絶賛するチャウの演技をぜひ堪能いただきたい。
第1章ではロバートの妻、サラの水泳コーチのウィル、第2章でダニエル(プレモンス)の親友ニール、第3章ではエミリーが、とある儀式を行う死体安置所に勤める看護師を演じるアティエは、ニューヨークの演劇学校を経て、イェール大学演劇大学院の芸術修士課程を卒業したあと、舞台俳優としてキャリアをスタート。初の出演映画となる『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』(15)を皮切りに、エマ・ワトソン主演の『ザ・サークル』(17)、ヒュー・ジャックマン主演『フロントランナー』(18)などで着実に経験を重ねると、『ブラック・ボックス』(20)で初の長編映画主演を果たし、近年ではハリウッド大作の『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(22)に出演。ボイスキャストとしても活躍し、ディズニー&ピクサーの長編アニメーション『マイ・エレメント』(23)で主人公ウェイド役を務めた。
本作への出演をアティエは心から喜び、「ヨルゴスは本当に特別な監督だと思います。彼が僕と仕事をしたいと言ってくれたことはすばらしいことでした。彼はただ、すべてがありのままです。賭けをするわけでもなく、安全策をとるわけでもなく、ただ本当にやりたいことをやっているのです」と、ランティモス監督だけが作り上げることのできる独創的な世界の魅力を語る。初めてのランティモス監督作品で「すべてを捧げて飛び込んだ」と語るアティエに注目だ。
第3章で、エミリーとアンドリュー(プレモンス)が探し求めている、特殊能力をもった人物ではないかと、ある儀式で試される女性アナを演じるシェイファーは、いま若い世代から絶大な支持を集めている。19歳からモデルのキャリアをスタートさせ、翌年には名だたる様々なブランドのランウェイを歩き、ゼンデイヤ主演のテレビドラマ「ユーフォリア/EUPHORIA」のジュールズ役で女優デビュー。一躍ブレイクを果たし、2021年には米国TIME誌に「未来を切り開く100人の俊英」にも選出された。全世界からの注目を集める新時代のアイコンであるシェイファーは、『ハンガー・ゲーム0』(23)に続き本作で実写映画の出演2作目となる期待のニューフェイスだ。
ランティモス監督の誘いで本作に参加することになったシェイファーの撮影は1日という短い時間だったが、その日は竜巻が発生していて外は危険な状態だったそう。屋内は安全だったものの、撮影終わりの屋外はひどく荒れた様子だったとか。無事に撮影が終わり、まるで竜巻と共に姿を消してしまったかのようなシェイファーとの撮影を、ランティモス監督は「その日が最も波乱に満ちた日でした」と振り返っている。そんなシェイファーの忘れがたい特別な印象は、しっかりと本作にも刻まれており、映画史に名を刻むランティモス監督と新時代の象徴シェイファーのコラボレーションは見逃せない。
ストーン、デフォーら続投組のみならず、その才能からハリウッドの実力者たちを惹きつけてやまないランティモス監督。彼らが持てるすべてを捧げた3つのストーリーは、果たして観る者をどのような境地へ誘うのか。ランティモス監督にとって集大成とも言える、見逃すことのできない衝撃作『憐れみの3章』に引き続き注目していただきたい。
文/山崎伸子