鈴木おさむ&ゆりやんが明かす「極悪女王」みなぎる熱気の正体「Netflixはおもしろいものをつくることにストイック」
「Netflixはいいもの、おもしろいものをつくることにストイック」(鈴木)
――本企画を進めてみて、改めてNetflixだからこそできること、Netflixでものづくりをすることの特別さについて実感していることがあれば教えてください。
鈴木「プロレスのシーンを含め、1980年代の空気を作らないといけない。何千人というお客さんの衣装や髪型も、すべて当時のものにしないといけないわけです。そういったことも、普通に考えたら難しいな話です。例えばテレビドラマをやっていると、『いかに予算を安く済ませられるか』ということも考えるわけですよ。でもNetflixのプロデューサーからは『一度、予算を気にせずべストな脚本を書いてみてください』と言われました」
ゆりやん「おおー!」
鈴木「テレビドラマだと、まとめて撮ることも多い。1話と最終回を同じ日に撮ったりね。それはいま、予算の問題で本当にしょうがないことなんだけれど、Netflixだと時間をかけて丁寧に、役者の気持ちに寄り添いながら作品をつくっていける。それはすごいなと思います」
――Netflixでのものづくりは、クリエイターに予算と自由があると言えそうでしょうか。
鈴木「自由を与えてもらえるけれど、一方でめちゃくちゃストイックだと思います。みんな勘違いしているかもしれないけれど、『Netflixは金があっていいよな』と言ったりするじゃないですか。違うんですよ。いいものを作るために必要なものには、お金を出すんです。そのなかでも本作はお金がかかるので、プロデューサーが悩んでいました(苦笑)。先日行われた配信記念イベント(ネトフリ極悪プロレス)だって、すごかったじゃないですか!入り口から80年代の世界に飛び込めるような仕掛けがあって、イマーシブシアターみたいになっていました。とことんおもしろいことをやろうと思っていて、スタッフ含めてそれをみんなが追求しているのがまたいいですよね」
ゆりやん「撮影の時にも、Netflixさんの現場のすごさをたくさん感じました。例えばダンプさんの実家を1軒まるまる建ててしまったり、セットや小道具もものすごく凝っている。ダンプさんが現場にいらっしゃった時も『これ、まったく一緒だよ』とおっしゃるくらいでした。また私たちはプロレスのトレーニングや体づくりをすることになっていましたが、そうすると時間も食費もめちゃくちゃかかるんです。それも全部Netflixがサポートしてくれました。撮影が終わってからも、太りっぱなしにするのではなく、元の体型に戻るまでずっとケアをしてくれるんです」
――撮影後のケアまで含まれるんですね。ゆりやんさんは今回、40キロの増量をされています。「そういったケアがあるならば、ダンプさん役を演じることができるかもしれない」と思えましたか?
ゆりやん「本当にそうです。気持ちの面でも安心感がありました。毎月血液検査や診断もしてくれて、健康的に撮影を終えることができました。みんなからは『増量して大変やな!』と言われますが、全然大変じゃない。『めっちゃケアしてくれるもん!』と思っていました」
「これで本当に辞められる」(鈴木)、「『極悪女王』をパネルのように掲げて、アメリカに行きたい」(ゆりやん)
――鈴木さんは今年放送作家を引退され、ゆりやんさんは映画監督デビューや、渡米を決められるなど、お二人とも新たな一歩を踏みだす年となりました。本シリーズに携わったことは、今後へのどのような力になりそうでしょうか。
鈴木「これは僕の遺作です」
ゆりやん「遺作やなんて!やめてください!」
鈴木「遺作ですよ(笑)。でもなんだかうれしかったです。もう新しい仕事をしているのでめちゃくちゃ忙しいんですが、先日の配信記念イベントを観ていて『これで本当に辞められるな』と思いました。5年くらいかかった大仕事だったので、放送作家、脚本家も含めてこれで本当に辞められる」
ゆりやん「辞めてほしくないです!」
鈴木「Netflixでこの作品をつくれたら、もう本望ですね。Netflixで作品をつくりたい人はいっぱいいるだろうし、企画を持っていった人もたくさんいると思いますから。数枚の企画書からすべてが始まり、ここで終えられるということが本当にうれしいです。僕にとっての人生の変わり目でもあるけれど、ゆりやんはこれからコメディアンとしてアメリカで勝負をする。『極悪女王』がゆりやんにとっての大きな名刺になったら、すごく誇らしいな」
ゆりやん「ドデカ名刺ができました!『極悪女王』をパネルのように掲げて、アメリカに行きたいです。『極悪女王』に出させてもらって、それに乗っかりながらアメリカでのスタートを切ることができる。そこで売れたら…おさむさん、みんなでまた一緒にアメリカでなにかやりませんか!」
鈴木「ぜひ声をかけてください!うれしいです。女芸人さんって、やっぱり生きていくのが大変じゃないですか。僕は奥さん(大島美幸)が女芸人なんで、そこに対する思いがとても大きくて。大島さんは、また仕事を始めていますが、やっぱり結婚して子どもが生まれたらどうしても以前のように仕事ができなくなったりする。そんななか、ゆりやんはいろいろなレギュラーを辞めてアメリカに行く覚悟をした。それってすごいことだと思うんです。なかなかそうやって踏み切れない人もいるので、日本の女芸人さんの気持ちも背負って、アメリカで頑張ってほしいなという気持ちがあります」
ゆりやん「おさむさんからの言葉を胸に刻んで行きたいと思います。男女の違いで言うと、ダンプさんたちにも、酒、タバコ、男は禁止という“三禁”があったじゃないですか。当時の男性プロレスラーさんには、“三禁”とかってあったんですか?」
鈴木「酒も飲んで、タバコも吸って、遊びまくっていたと思いますよ!女性だけ、厳しいんです」
ゆりやん「ひどい!芸人だって、男芸人はモテるけれど、女芸人はモテない。なんだか腹が立ってきた(笑)。でもダンプさんたちが女子プロレスを盛り上げて、男子以上に日本中を熱狂させていたと思うと、“女芸人だからできない”ということもあるかもしれないけれど、“だからこそ強くなれる”こともあるのかなと。女芸人だからこそできること、目立てること、強みになることもある。だって“禁”があるなかで頑張ってやっているほうが、それがバネになってできることも絶対にあるはずです。縛られた女性たちに注目した作品ができたのは、やっぱり『おさむさんだからなんだな』といまパズルのすべてのピースがハマったような気がしました。おさむさんはいつも、女芸人の王でいてくれる」
鈴木「やめてよ!ハーレムの王みたいに言うの!」
ゆりやん「あはは!『極悪女王』は私の人生において、かけがえのない作品になりました」
取材・文/成田おり枝