ティム・バートンが語る、『ビートルジュース ビートルジュース』での“原点回帰”「アドリブこそが1作目のおもしろさ」
「自分がどれだけ映画づくりが好きか再確認できました」
前作から35年後の、同じ世界観を描くということもあり、大幅に雰囲気を変えることなくアップグレードさせることが必要だったと明かすバートン監督。そのうえで大きな助けとなったのは、やはり個性と才能にあふれたキャスト陣の存在だろう。
キートンやライダー、デリア役のキャサリン・オハラといった続投キャストに、「ウェンズデー」でもタッグを組んだジェナ・オルテガ、名バイプレイヤーのジャスティン・セローに近年再注目を集める個性派スターのウィレム・デフォー、そしてバートン監督の現在のパートナーでもあるモニカ・ベルッチ。厚い信頼をおけるキャスト陣を揃えたことによって、彼らから自然発生的に生まれる動きやアドリブを尊重することができ、コミカルかつユニークな掛け合いが実現したという。
「この映画では特に(アドリブを促した)ね。マイケルにキャサリン、ウィノナ、ジェナ、ジャスティン、ウィレム、モニカなど、キャスト全員が協力してくれてすばらしかったです。脚本はおおまかな計画のようなもので、それがあるかぎり方向性を見失うようなことはありません。そして、やはり1作目のことを思い出しました。元の脚本と、実際に出来上がったものを比べると、まったく別物ですからね。今回もいろいろなことが起こりました。だから、たくさんの人々の協力の上に成り立つという意味では、アニメーション映画の制作に似ていましたね」。
満足そうに才能あるスタッフ・キャストとのコラボレーションを振り返るバートン監督は、作品の出来栄えにも確かな手応えをのぞかせる。個人的にお気に入りのシーンがあるかと訊ねてみると、「特定の場面ということではありません。それよりも、作品全体を通して感じられるものや、いままで経験したことがないおもしろさがあると思います。そこに注目してほしいです。映画のシリーズものにはこうなるだろうという期待がつきまといます。しかし、本作についてはそうしたお約束もなければ、こうあるべきという理想もありませんでした。それが救いになりました。特定のカテゴリーにも当てはまりませんしね。でもなにかよくわからないことに取り組んでいる時は、ある種の未知なるワクワク感があります。『ビートルジュース』シリーズはワクワクの連続でした」と熱弁をふるう。
そんなバートン監督だけでなく、本作に携わった関係者の多くが「最高に楽しい映画制作だった」と語っているそうで、その現場の空気感が作品にもあらわれていることは間違いないだろう。最後にバートン監督は、自身のキャリア初期とあらためて向き合う貴重な機会となった本作での経験を、大切そうに噛みしめていた。
「楽しみに対する考え方は、人によって大きく違うかもしれません。私の考える楽しさも、おそらく誰とも違うでしょう。でも、『楽しかった』と言えると思います。長いキャリアのなかで最も満足のいく経験でした。何年もこの業界にいると、少し脱線してしまったり、仕事にあまり興味をもてなくなったりすることもあります。でも本作を通じて、自分がどれだけ映画づくりが好きか再確認できました。ビジネス的なことは横に置いて、映画づくりに没頭する。芸術性を追求できて、心がときめく感動的な時間でした。それを楽しいと呼ぶなら、その通りですね」。
構成・文/久保田 和馬