『Cloud クラウド』を引っ提げ、黒沢清監督が釜山国際映画祭に登場!表彰式と記者会見、Q&Aを徹底レポート
黒沢清監督が語る、“ジャンル映画”の魅力とは?
さらに会見では、注目している日本の若手監督はいるかという質問があがり、前日にお祝いのメッセージをくれた濱口の名前を挙げた黒沢監督。「彼は意地のように僕とは違うことをしますから(笑)。それであれだけすばらしい作品を撮っているので、僕が濱口に対してなにかいうことはありません。先へ先へと突き進んでくれ、というのが僕の彼へのエールです」とコメント。
「作家性の強い優秀な監督はたくさんいると思いますが、日本でジャンル映画を目指す若い監督はほとんどいないと思います。韓国にはたくさんいると思いますが、日本ではそのような若手は育っていない。近年の状況は困ったものだなと感じています」と、自身が世界的な注目を集めるようになったいまでも手掛け続けている、ホラーやアクションなどの“ジャンル映画”の将来を憂慮する。
その流れでジャンル映画の魅力を訊ねられると「一言で言うのはとても難しいのですが、映画的ななにか、映画にしか表現できないものがあり、観ている瞬間はスクリーンに釘付けになり、観終わったらすぐにもう一度観たいと思う。そういう魅力があるのはジャンル映画的ななにかだろうと僕は信じています」と説明。
「もちろん映画の可能性はそれだけではありません。社会のある問題を提示し、批判的に捉えることもできるし、人間の深い心のある面を抉りだすことも可能です。ただ映画は、“映画的である”ということも大きな可能性であるというのが、僕の考えです」と熱弁を振るっていた。
盛況のQ&Aに大満足!「作品への理解が深まりました」
同日夜に行われた「ガラ・プレゼンテーション」部門での『Cloud クラウド』の公式上映には、若い映画ファンを中心に大勢の観客が詰め掛け、会場は満席となるほどの大盛況。上映後に行われた観客からのQ&Aでは、韓国でも人気のある菅田について「善人でも悪人でもない人物から悪の道を選ぶことになる人物へと変化していく様子が非常に興味深かった。監督はどのような演出をされたのでしょう?」という質問が。
それに対して黒沢監督は「僕は心や感情の流れについては説明しましたが、演技の指導はしていません。すべて菅田さんに委ねました」と説明。さらに「正直ここまでやっていただけるとは予想していませんでした。本当に難しい役柄で、180度人間が変わっていく。その表現を飛躍させながら観ている人にわかりやすく演じ切る。それは菅田さんの才能によるものだと思っています」と改めて菅田の演技を絶賛。
その後も様々な質問に真摯に回答し、最後の挨拶では「釜山のお客さんは質問のレベルも高く、僕自身もQ&Aを通して作品への理解が深まりました」と感謝を述べ、大きな拍手に包まれていた黒沢監督。ヴェネチア国際映画祭とトロント国際映画祭に続き、釜山でも熱烈に迎えられた本作は、第97回アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品にも選出されている。今後、世界を舞台にさらなる快進撃を見せてくれるのか、大いに注目していきたい。
取材/編集部 文/久保田 和馬