故イ・ソンギュンが映画人から愛された理由とは?「In Memory of Lee Sun-kyun」で涙を見せた俳優たち
「本当の兄弟のようだった」監督と共演者が思い出を語る「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」
追悼企画を締めくくったのは、ドラマ「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」だった。キム・ウォンソク監督、イ・ソンギュン扮するドンフンと兄弟を演じた長男サンフン役のパク・ホサン、次男ギフン役のソン・セビョクがステージに登場した。
「別れた実感がないです。どこかで安らかに休んでいると信じています」と口を切ったソン・セビョクは、印象的な撮影の思い出を聞かれると「1つに絞るのが難しい」としつつも、「ドンフンが殴られて顔が傷だらけだったとき、兄弟たちで『誰がやったんだ!?』と飛び出していく場面です。ギフンとドンフンの特別な兄弟愛を見た思いがしました」と語った。
一方パク・ホサンは、第5話にある「どんなに貧しくても、いつ死んでもいいようにパンツは高いものを履きたい」というギフンのセリフを受け、酔って倒れたドンフンが「今日は安いパンツだから死ねない」というシーンが印象的だったと明かし、さらに「イ・ソンギュンはドンフンのように内に抱える性格。そして恥ずかしいのが嫌だとたくさん話していました。君を信じている。恥ずかしくない!」とドラマの名ゼリフを引用し無念さを表した。
いまでこそ根強い人気を誇る「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」だが、当初は若い女性と既婚男性が恋に落ちる、モラルのないドラマだと早合点された。キム・ウォンソク監督によると、当時の撮影現場でイ・ソンギュンは、批判に苦しんでいたという。そうした人柄を知るキム・ウォンソク監督は、「イ・ソンギュンさんを追悼する行事の始まりが、BIFFであることがありがたいです。そして続かないといけません。イ・ソンギュンさんがなぜ亡くなったのか?イ・ソンギュンさんがどんな人だったのか?今回はそういうことを記憶する試みが反映された、多様な企画がたくさんあると思っています」とし、さらに踏み込んだ。
「ドンフンという役が彼の負担になったようで、本当につらいです。大衆から攻撃される人がどれほど大変か、メディア時代の強者は皆さんだということはよくご存知なのではないでしょうか。俳優たちは本当に弱い立場。皆さんの支持と声援がなければ存在できない。犯罪者と断じる前に、もう少し機会を与えていただきたいんです。犯罪を犯しても機会を与えられてほしいと私は思いますが、(彼の場合は)犯罪でもなく、証拠もない状況でした。何の関係もない方々にこんなことを言って申し訳ないんですが…もう少し慎重になっていただきたいです。とんでもない記事を出した人たちや虚偽の捜査内容を流出した人々は罰されなければならないのではないでしょうか」。
キム・ウォンソク監督の発言を「やり過ぎだ」と批判するネットユーザーや一部韓国メディアもあるが、彼がここまで言及したのには理由がある。イ・ソンギュンが昨年10月に警察庁の取り調べを受けたとき、麻薬の検査結果は陰性だった。そんな証拠が出揃わない時点でも、騒動はセンセーショナルに報道された。イ・ソンギュンの死後、ポン・ジュノ監督ら映画人有志は、捜査情報の不当な流出と、そのことで起きた過剰報道を批判し徹底した真相究明を求める声明を提出した。のちに捜査情報を流出した疑いが持たれている警察官が緊急逮捕され、現在国会では捜査における被疑者の人権保護法、別名“イ・ソンギュン法”が発議されている。
疑惑の段階で捜査状況を無分別に明らかにしたことや、疑惑と関係ないプライベートを書き立てたことは果たしてフェアなのだろうか。キム・ウォンソク監督が最後にイ・ソンギュンへ語りかけた一言は、確実にあの場にいた観客の心に響いただろう。
「ソンギュン!俺は君を知っている。だから君がなにをしたとしても、俺は君を信じている!」
取材・文/荒井 南