「ストーリーそのものは普遍的だったと思います」
2024年2月に「SHOGUN 将軍」は配信が開始された。「配信当日はスタッフとワシントンDCにいました。皆でホテルのジャスティンの部屋に集まって、配信開始と同時にシャンパンで乾杯して、一緒に第1話を観たのはよい思い出です」と宮川は振り返る。その後、1週間おきに最新話が配信され、最後の第10話が公開された4月には注目すべきドラマとしての地位を築いていた。「SNSの盛り上がり方はすごかったと思います。とくに9話目でヒロイン、鞠子に起こる出来事の反響は本当に大きかった。北米の反応を見ていると、社会現象として広まっているような、そんな感覚はありました」。ほとんどが日本語のセリフである「SHOGUN 将軍」が英語圏で受け入れられたという事実は驚くほかない。「日本の戦国時代という、ビジュアル的にも哲学的にもおもしろい背景がありながらも、ストーリーそのものは普遍的だったと思います」と宮川は語る。「ゲーム・オブ・スローンズ」と比較して語られることもあったのは、そのためだろう。
虎永や鞠子は人気キャラクターとなったが、インターネット・ミームとしては浅野忠信が演じた虎永の家臣、藪重や、穂志もえかが扮する藤がファンの間では人気だったという。「藪重も藤もそうですが、撮影している段階から楽しかったんですよ。藪重は浅野さんがすごく考えて、役を作り込んで演じられていましたが、その姿がおもしろいので、私たちもモニター越しに見ているだけでニコニコしてしまうんです。藤も同様です。リアクションの表情が独特で、見ていて楽しくなる。そのような要素が実際に作品の中でも活きていたので、世界中の視聴者が私たちと同じような反応をしているんじゃないでしょうか」。
インターネットの“祭”の状態は配信が好評であることの表われ。しかし、本物の祭は、やはりエミー賞だろう。最多25部門にノミネートされたことからも、「SHOGUN 将軍」の注目度の高さがうかがえる。「メリル・ストリープやジョディ・フォスターのようなビッグネームがたくさんレッドカーペットを歩いているようところで、皆が『「SHOGUN 将軍」、すごくよかったよ』と声をかけてくれる。中心的な作品に関わった立場として、そんな場に自分がいることが正直、信じられませんでした。あの舞台に立ったことは、“すごい経験をしてしまった”という想いがありましたね」と宮川は振り返る。作品賞を受賞した瞬間は、「もちろんうれしかったのですが、むしろホッとしました」とのこと。長きにわたって携わってきた大きな“祭”が、ひとまずここで終了した。
「こだわりのディテールが、大きなスクリーンではさらに楽しめると思います」
この好評を受けて、「SHOGUN 将軍」は、いよいよ映画館のスクリーンで上映されることになる。その際の見どころはどこになるのだろう?「大画面でぜひ観ていただきたいです。エミー賞では撮影賞や美術賞、音響賞などの技術部門も受賞しましたし、それほど技術的にもクオリティの高い作品ですから。照明にもこだわりがあって、あの時代の灯りの度合いを再現していますし、音に関しても刀を抜く音や振る音など、ひとつひとつを真田さんがすべてチェックして作っています。そんなディテールが、大きなスクリーンでは、さらに楽しめると思います」。
気になるのは製作が決定したというシーズン2。虎永や按針のその後や、関ケ原の戦いがどう再現されるかなど、興味は尽きないが現時点では内容についてはなにも決まっていないという。「脚本の制作は7月から進めていて、ジャスティンら脚本班が鋭意制作中です。それがある程度かたちになった段階でスタジオに提出し、撮影にゴーが出ると思いますが、現段階では脚本の完成を、首を長くして待っている状態です。とにかく、シーズン1を超えるようなおもしろいものを作ろうと、私たちも盛り上がっているところですね」。シーズン1のファンはさらに首を長くして待つことになるだろうが、ともかく楽しみでしかない。
取材・文/相馬学