『ザ・バイクライダーズ』ジェフ・ニコルズ監督に単独インタビュー。「人の顔や行動こそがシネマ」
『マッド・マックス/怒りのデス・ロード』(15)や「ヴェノム」シリーズのトム・ハーディ、『最後の決闘裁判』(21)のジョディ・カマー、『エルヴィス』(22)のオースティン・バトラー、そして二度にわたりアカデミー助演男優賞にノミネートされた名優マイケル・シャノン。映画ファン垂涎の実力派キャストを揃えた映画『ザ・バイクライダーズ』が公開中だ。
監督を務めたのは『MUD マッド』(12)、『ラビング 愛という名前のふたり』(16)のジェフ・ニコルズ。スリラー、SF、伝記映画と毎作異なるジャンルを扱いながら、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門の常連として評価され続ける俊英だ。そんなニコルズ監督の最新作『ザ・バイクライダーズ』は、アメリカの写真家ダニー・ライオンが1965~73年にかけて、シカゴのバイクライダーたちの日々を綴った同名写真集にインスパイアされた人間ドラマ。モーターサイクルクラブでの日々から、組織が先鋭化し暴力に支配され、崩壊していく模様がドキュメンタリータッチで描かれている。
今回、ヒリヒリするような暴力とリアルでエモーショナルなドラマが同居する本作について、ニコルズ監督に話を聞いた。インタビューの聞き手を務めるのは「第2回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞し、清水崇監督のプロデュースによる長編初監督作『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(2025年1月24日公開)を手掛けた近藤亮太監督。「イシナガキクエを探しています」「行方不明展」など、話題作の映像演出を次々と手掛けている期待の新鋭が、映画監督を目指すうえで「とても大きな影響を受けた」と語るのがニコルズ監督だという。
「ダニー・ライオンが写真集として残したものに、自分なら命を吹き込めると感じた」
――『ザ・バイクライダーズ』は写真集から影響を受けて作られたとのことですが、 写真集のどのような点に魅力を感じたのでしょうか?
「インスパイア元となった写真集には、ダニー(・ライオン)が観察していた人々の顔と行動が記録されていました。私は、人間というのはそもそもシネマティック=映画的な存在だと思っています。映画は画面のビジュアルや演出で語られがちですが、私にとっては人の顔や行動こそがシネマです。 写真集の中でも、そこが描かれている点に魅力を感じ、この特異なサブカルチャーに生きていた人々のパーソナリティで、スクリーンをいっぱいにしたいと考えました」
――人の顔と行動こそシネマ、というのは監督の作品を観ていて非常に感じます。過去作と異なる点はありますか?
「今回はいままでの私の作品と比べると、ボイスオーバー(劇中人物によるナレーション)を用いていたり、 音楽も物語に寄り添ったりするようなものになっています。これは過去にはやっていない手法で、フィルムメーカーとしては挑戦でした。私自身は劇中のモーターサイクルクラブのような文化の一部ではありませんでしたが、ダニーが写真集として残したものに、自分なら命を吹き込めると感じて、この映画に取り組みました」
――映画には、写真集にも登場する、個性的でユニークなキャラクターが多数いますが、キャラクターはどのように作り上げていったのでしょうか?
「たとえば、ジョニーというキャラクターについては、トム(・ハーディ)が演じることで完成したと思います。考えてみると、ジョニー自体が、“クラブのリーダー”という役を演じているところがあります。トムがそれを見事に表現してくれました。元となるダニーの本にそういうキャラクターたちの一面が描かれていたから、俳優たちも私自身もキャラクターを作ることができたのだと思います」
――実際の記録を共有しながらキャラクターを作り上げたんですね。
「はい。キャシーや コックローチ(エモリー・コーエン)も、実際に存在している人物がモデルになっています。キャシー役のジョディ(・カマー)には、キャシーが実際に話しているオーディオが残っていたので、音源を一時間分送りました。その甲斐があって、本当に見事に演じてくれましたね。トムと最初に話をした時、トムがふざけて『キャシー役をやらせてくれないか』と言ってたんです(笑)。きっとそのくらいキャシーが脚本の中で一番立体的にキャラクター像が見えていたんだと思います。ダニーが残してくれた本のおかげです」