『ザ・バイクライダーズ』ジェフ・ニコルズ監督に単独インタビュー。「人の顔や行動こそがシネマ」
「人の行動はとてもユニーク。それは常に私たちの感情が反映されているから」
――監督の作品は、心理表現・心情表現が非常に巧みです。いつもどのようにして考えているのでしょうか?
「私の中では二つの視点があると思います。というのは、私自身がライター・ディレクター(脚本家兼監督)なので、まずは脚本家としての思考があるんです。いつも考えているのは、人の行動はとてもユニークだということ。 本当に欲しいものは口にしなかったり、 自分にとって最善じゃないことをあえてしたり、 時に奇妙な選択をします。それは常に、私たちのフィーリング=感情が反映された行動なのだと思います。脚本家としては、まずどのシーンでも、キャラクターが感じていることはなんなのか?を考えて書いています」
――なるほど。俳優とはどのようにコミュニケーションをとっていますか?
「まず俳優に対して、難しいと感じた時は声をかけてほしいと伝えています。脚本を書いた時点で、どのような意図で書いたのか、 どのようにキャラクターを理解していたのか、 といったことを、俳優に対してなるべく正直に伝えています。時には俳優の演技について『ここでは怒りが前面に出ているけれど、実は恐れているのでは?』といったようなことも率直に話したりしますね」
――監督として感じていること、俳優が感じる難しさを互いに共有しあっているんですね。
「そうですね。そうすると俳優も安全に感じるらしく、すごく解放されたように演じてくれます。 実際にオースティン(・バトラー)にも言ったんです。『この作品は撮影前の時点で、自分の頭の中ではもう撮影したも同然なんです』と。それが最善のバージョンではないかもしれないけれど、 そのつもりでいるので、なにか疑問があったら言ってくれ、と伝えました。 そうすると、 みんな安心して演技をしてくれます。 あとは座って撮ればいい。それになにより大きいのは、すばらしい俳優たちと仕事ができているということだと思います」
――これまでジャンルが異なる映画を撮っていますが、一貫したトーンや作家性を感じます。どのように意識して作っているのでしょうか?
「おそらく、物語に関するアプローチによるのではないかと思います。 私はプロットよりも感情面でのクライマックスを意識しています。“エモーショナル・パンチ”と呼んでいるのですが、クライマックスで感情的にグッとくるものに辿り着く。それさえあれば、どのジャンルでも応用できます」
――監督ご自身は、どのような作品や監督、 文化に影響を受けていますか?
「映画と同じくらい文学に影響を受けていますね。 初期の自分の作品はラリー・ブラウンやウィリアム・フォークナーなどの南部の作家や、アメリカ文学の影響が強いです。今回の作品にも関連付けられそうなところだと、ポール・ニューマンが主役をやっていたような60年代の映画作品に影響を受けています。たとえば『ハスラー』や『暴力脱獄』は、アメリカ文学が原作で、 キャラクター優先になっています。だからこそ、このキャラクターは何者なのかを掘り下げることができる。そこにおもしろみを感じます。 もちろん、映画や監督名を具体的に挙げることはたくさんできるのですが、これが一番いい回答だと思います」
作品から受ける印象そのままに、誠実で丁寧に、なおかつ熱く自作について語る姿が印象的なジェフ・ニコルズ監督。『ザ・バイクライダーズ』では、多くの人にとって馴染みの薄いであろうモーターサイクルクラブについての物語を、繊細な作家性を存分に発揮し作り上げている。ぜひ映画館で、エンジン音に耳を澄ませてほしい。
取材・文/近藤亮太