「第16回TAMA映画賞」最優秀女優賞の上白石萌音、松村北斗&三宅唱監督らと会話を重ねて作り上げた『夜明けのすべて』への愛あふれる!
映画ファンの祭典「第34回映画祭 TAMA CINEMA FORUM」にて国内映画賞のトップバッターとして注目を集める「第16回TAMA映画賞」の授賞式が11月30日にパルテノン多摩で開催され、本年度最も心に残った女優を表彰する最優秀女優賞に輝いた上白石萌音、河合優実が登壇した。
上白石は、瀬尾まいこの同名小説を三宅唱監督が映画化した『夜明けのすべて』の演技が評価されて受賞を果たした。パニック障害を抱え無気力に毎日を過ごしている山添くん(松村北斗)と、月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さん(上白石)が交流し、少しずつお互いの殻を溶かし合っていく姿を描く本作。同映画祭からは、「ままならない不調に向き合う一生懸命な藤沢さんを愛情いっぱいに表現し、星空を見上げたときのような穏やかな幸福感をもたらした」と受賞理由について説明された。
受賞理由を目にして、上白石は「役への愛情を評価していただけたのがとても幸せです」としみじみ。「この映画が大好きです」と本作への愛情をあふれさせた。続けて「藤沢さんほどではないんですが、私も生理が重くて生理前にはかなり心身が不安定になるんです」と告白しつつ、「この辛さも役になにかの立つんだなと思いました。自分の心身を観察して、藤沢さんへの共感と理解を深めたいなと思いました」と役作りについて回想。「難しいシーンだらけでしたが、一緒になって同じ熱量で答えを探していけるチームの皆さんがいて、たくさん話し合いながら心強く撮影を進めていました」とチームへの感謝を込めた。今年も大活躍の年となったが、「たくさんの挑戦をさせていただいて、そのたびに壁にぶつかって、自己嫌悪と周りへの嫉妬にさいなまれ続けた年」と苦笑いで今年を分析。「そのたびに周りの方々が背中で示してくださったり、相談に乗ってくださったり、やさしさをポンと渡してくださったり。たくさん支えてもらった1年です。負の感情は一生、付き物。そのたびに周りを見渡して感謝しながら、これからも頑張っていきたいです」と誓った。
また今後の抱負を聞かれると「いつも楽しそうな、幸せそうな人でありたい」と目尻を下げた上白石。「幼いころから両親に『人の役に立ちなさい』と言われ続けてきたので、人の役に立てるような、藤沢さんのような、温かいおせっかいをいっぱいしていけたらいいなと思います」と輝くような笑顔で人柄のにじむスピーチをし、大きな拍手を浴びていた。また同作で山添くん役を演じた松村は、最優秀新進男優賞を受賞。ステージにはビデオメッセージが到着した。松村は「小さな町の日常に近いような作品。過度なこともできるだけせずに、人の苦しいところも弱いところも、見せ物にしないような作品」と魅力に言及。同作は作品賞も受賞をしたが、「会話をいっぱい重ね、現場でもいっぱいしゃべって、いっぱい試して、少しずつ積み上げていった作品。作品賞やそれに付随した賞をいただけると大きな達成感があります」とコツコツとつくりあげたからこそ喜びも大きい様子だ。
作品賞のトロフィーを手にした三宅監督は原作者への感謝をにじませながら、自身もたくさんの発見のある作品だったとコメント。「とても楽しい撮影だった」と幸せそうな顔を見せ、上白石と息の合ったトークを繰り広げる場面もあった。もともと原作の大ファンだったという上白石は、「ちょうど朝ドラで松村さんと夫婦役をやっていたので、ぴったりだと思った。山添くんは松村さんしかいないと思った。頭のなかでバチバチっと閃光が光った」と絶妙なキャスティングに心が弾んだという。「現場でも松村さんのお芝居とは思えないような息遣いや言い回し、笑い声に日々、嫉妬を積み重ねた現場でした」とお茶目に微笑み、「松村さんと三宅さん、あのチームだからこそ描けた。会いたいですね、みんなに」とチームへの愛着を吐露。三宅監督は「わからない題材に関して映画をつくることはすごく楽しいなと思いました。まだわからないことだらけなので、また一個一個、題材ごとに映画をつくっていければなと思っています」と未来に向かって意気込んでいた。
そして『ナミビアの砂漠』『あんのこと』『ルックバック』『四月になれば彼女は』など数々の映画で鮮やかな存在感を発揮した河合は、21歳の主人公が自分の居場所を探してもがく姿を描く『ナミビアの砂漠』において「自分勝手で暴力的な振る舞いを取りながら心を壊していく新たなヒロイン像を、生々しくも魅力的にスクリーンに焼き付けた」ことが理由となり、最優秀女優賞を獲得した。トロフィーを手にした河合は「今年公開された作品はどの現場でも、できればこの先もまたこういうふうに映画をつくりたいなと思えるような人の探究心や信念をたくさん見ることができた。キャスト含めたスタッフの皆さまに、心より感謝申しあげたい。皆さんのことを誇りに思っています」と力強く語り、「感謝したい人のなかに、もうこの世界にはいない人がいて。その人のおかげでつくれた映画が、ひとつありました。本当はいただいたトロフィーを見せに会いに行って『ありがとう』と伝えたいんですが、この場を借りて伝えさせてもらいたいと思います。本当にありがとうございました」と心を込めてお礼を述べると、会場からは大きな拍手が上がっていた。
さらに同映画賞で特別賞を受賞した『ルックバック』の押山清高監督、最優秀新進監督賞を受賞した『ナミビアの砂漠』の山中瑶監督もステージに上がり、河合の俳優力を証言した。藤本タツキによる同名コミックを劇場アニメ化した『ルックバック』で、河合は藤野役として初めての声優業にチャレンジした。押山監督は「あまりにもうまくてディレクションする側の不安をいっぺんに吹き飛ばしてくれた」と絶賛。
河合は高校生時代に山中監督に向けて、「いつか監督の作品に出演したい」と手紙を書いた過去があるという。山中監督は「当時でもよくその時の光景は覚えていて。眼差しの鋭い、強気な、勝気な目をした子が来たなと思った」と述懐。「非常に恥ずかしい」と照れた河合は、「でもその恥ずかしい行動をしなければ、『ナミビアの砂漠』はできていない。必要だったパワー」と前を向き、「ガザで起きていること、ウクライナで続いていること。それ以外の国や、日本で起きていることもたくさんあって。どう考えても痛みみたいなことが増え続けているように感じている。そういう世界でものを作っていることが、一体世界に対してどういう働きかけになっているのかを考え続けていたい。大きくいうと、そういうことだけが自分の仕事かなと思っているので、そのように仕事を続けていきたいなと思っています」と世界を見渡し、思考を深めながら俳優道を邁進していきたいと宣言していた。