第77回カンヌ国際映画祭最高賞パルムドールを受賞した『ANORA アノーラ』が2025年2月28日(金)に公開される。このたび、本作の場面写真が一挙解禁となった。
『タンジェリン』(15)、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(17)と、幾度となくアメリカ社会の”声なき声”をすくいあげ、丁寧かつユーモラスに描写してきたショーン・ベイカーが監督を務める本作。アメリカでは10月18日から6館で先行公開され、1館あたりの興行収入が9万ドル超え、2024年公開作の週末館アベレージNo.1を記録。その後評判が広がり現在では北米1500館まで拡大され現在も絶賛上映中だ。
ベイカーが本作で描くのは、自らの幸せを勝ち取ろうと全力で奮闘する、ロシア系アメリカ人の若きストリップダンサー、アノーラの等身大の生きざまだ。ニューヨークを舞台に、身分違いの恋という古典的なシンデレラストーリーを21世紀風にリアルに映しだした本作は、監督作品史上最もエンタテインメント性が高く、清濁合わせ呑む人間らしさに溢れている。主役のアノーラ、通称アニーを演じるのは、新星マイキー・マディソン。監督は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)と『スクリーム』(22)での演技を見てマディソンを抜擢したという。また、アノーラに夢中になるお調子者のロシア新興財閥の息子イヴァンを演じたのは「ロシアのティモシー・シャラメ」の愛称で親しまれるマーク・エイデルシュテイン。そして、ユーリー・ボリソフも2人の結婚を阻止しようとする男の1人を好演する。
始まったばかりの賞レース、現在カンヌ国際映画祭も含めた18の賞で、すでに66部門にノミネートされ、うち20部門で受している本作賞。作品賞、監督賞、主演俳優賞(マディソン)、脚本賞を中心にノミネート、受賞しており、その他アンサンブル演技賞や撮影賞など、作品のクオリティの高さと主演マディソンの演技を中心に高い評価を得、注目が集まっている。そして、先ほどノミネート作品が発表された第82回ゴールデンクローブ賞でも、作品賞(ミュージカル・コメディ部門)、監督賞、主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)(マディソン)、助演男優賞(ボリソフ)、脚本賞の5部門にノミネート。複数賞受賞の期待が高まっている。
今回解禁されたのは、ふり幅がすごい21世紀のアンチシンデレラストーリーを思わせる場面写真。マディソン演じる主人公アニーの悲喜こもごもが見ることができる。数カラットの結婚指輪をはめた指をかざしたご満悦の笑顔や、御曹司のイヴァンの膝の上に座りカジノではしゃぐ様子など、ストリップダンサーが大富豪の御曹司と恋に落ち、結婚するにいたる「いかにも」なシーンも。しかし、他の場面では、すっぴんに冴えない表情で夜の埠頭や街にたたずむアニーが見てとれ、キラキラのシンデレラストーリーにはそぐわない、ただごとではない何かが起きるらしいことも想像できる。
賞レースをにぎわせていることについてマディソンは「アノーラは私にとって特別で、大好きなキャラクター。この作品も大切に思っているし、監督はじめ作品にかかわったみんなの愛が詰まった結晶でもある。だからこそ、演技についてポジティブな反応をもらえることや、役作りや作品に注いだ情熱が理解されるのは本当に嬉しい」とコメントしている。また、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』と『スクリーム』での演技を見てマディソンを抜擢したベイカー監督は「リサーチを経て、マディソンは撮影開始までに アニーを真に理解していた」と、彼女のキャラクターへのリサーチと洞察力を絶賛。そんな監督の期待に見事に応え、本作の演技で批評家や観客から大絶賛を浴びている彼女が、今年の賞レースの注目の的になること間違いない。
約束されたハッピーエンドなんて存在しない。物語は自分で作るしかない。ちょっとビターで刺激的な21世紀の“アンチシンデレラストーリー”とはどのようなものなのだろうか?予想を超える結末にぜひ期待して欲しい。
文/鈴木レイヤ