第97回アカデミー賞国際長編映画賞のドイツ代表に選出され、第77回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞。先日発表されたアカデミー賞の前哨戦とも言われる第82回ゴールデン・グローブ賞では非英語作品賞へのノミネートを果たした『The seed of the sacred fig』の邦題が『聖なるイチジクの種』(2025年2月14日公開)に決定。あわせて、本予告及び本ポスタービジュアルが解禁となった。
本作は、2022年に実際に起き、社会問題となった、ある若い女性の不審死に対する市民による政府抗議運動が苛烈するイランを背景に、家庭内で消えた一丁の“銃”を巡って家族も知らない互いの顔が炙りだされていく、予測不能に加速する衝撃のサスペンススリラー。
国家公務に従事する一家の主、イマンは20年間にわたる勤勉さと愛国心を買われ夢にまで見た予審判事に昇進。しかし業務は、反政府デモ逮捕者に不当な刑罰を課すための国家の下働きだった。報復の危険が付きまとうため、国から家族を守る護身用の銃が支給される。しかしある日、家庭内から銃が消えた。最初はイマンの不始末による紛失だと思われたが、次第に疑いの目は、妻のナジメ、姉のレズワン、妹のサナの3人に向けられる。捜索が進むにつれ互いの疑心暗鬼が家庭を支配する。そして家族さえ知らないそれぞれの疑惑が交錯する時、物語は予想不能に壮絶に狂いだす。
映像は、愛国心に溢れる一家の主イマンが、念願だった判事に昇進したシーンから始まる。家族とともに喜びを分かち合い、幸せそうな笑顔を見せるイマン。だが、喜びも束の間、実情は、国家に言われるがまま20歳の青年に死刑宣告を下すという不条理に苛まれ、政府への抗議デモが加熱するなか、反体制派によって自らの住所がネットに晒されるというまさに「命を狙われる仕事」だった。反体制派からの復讐の恐怖に怯え、徐々に神経がすり減っていくイマン。そんななか、護身用として家庭内に保管していた一丁の銃が無くなっていることに気づき、愛する家族にも疑いの目を向け始める。
秘密裏にデモに加担する友人と連絡を取りながら、執拗に家族を疑う父に対して強い疑念を投げかける娘たち。そして「お前は人殺しだ」と正義を盾に、判事であるイマンを動画配信で世界に中継しようとする人物も現れる。揺れる国家を背景に様々な疑念、猜疑心、正義が交錯。一体、誰を、そしてなにが信じられるのか?あなたの信念は根底から覆される。母国を追われてもなお、モハマド・ラスロフ監督が世界に問おうとする、衝撃とメッセージが捉えられた予告となっている。
本ポスターは、父イマンの朦朧とした横顔に「家庭内で消えた<銃>。容疑者は父、母、姉、妹―あなたが目撃するのは“禁断の真実“」というキャッチコピーが中心に据えられたもの。さらにその中には、物憂げな表情をした母、姉、妹の姿も収められ、その姿は、国家、父という絶対的権力の中に囚われて抗えない人々を強く印象付けるようなビジュアルになっている。
家族にすら向けられた疑念はどこへと向かうのか?世界へ投げかけられた『聖なるイチジクの種』のメッセージを劇場で受け取ってほしい。
文/平尾嘉浩