『劇映画 孤独のグルメ』(2025年1月10日公開)の完成披露舞台挨拶が12月16日にイイノホールで行われ、松重豊(監督・脚本・主演)、内田有紀、磯村勇斗、杏、オダギリジョーが出席した。
原作の久住昌之、作画の谷口ジローによるハードボイルドグルメ漫画を原作とし、2012年からテレビ東京系列で放送されている人気ドラマの劇場版となる本作。輸入雑貨商を営む主人公、井之頭五郎(松重)が、営業先で訪れた土地で見つけた食事処にふらりと立ち寄り、食べたいものを独り自由に食す様子を1話完結で淡々と描いたドラマは、食欲をそそる料理と松重演じる五郎の大胆な“食べっぷり”や“心の声”に多くの共感が生まれ、その魅力にハマる人が続出。このたびテレビ東京開局60周年特別企画として、『劇映画 孤独のグルメ』となって登場する。
大きな拍手で迎えられた松重は「構想の段階から考えると2年半くらい経っている。長い道のりでした。ようやくまもなく到達点」と映画完成までの道のりに思いを馳せ、「『孤独のグルメ』というくらいで僕一人が格闘すればいいんですが、映画ということでステキな皆さんに共演していただいた。自分で書いたセリフなんですが、俳優さんが口にすることによってこんなにも豊かなものに変わるんだと。この仕事をやっていて初めて気づきました」としみじみ。撮影後は黙々と作業していたこともあり、「皆さんのお顔を実際に見ることがこんなにもうれしくて、感動的なものなんだなと思いました。一人じゃないんだと改めて思いました」と豪華キャスト陣を見渡し、うれしそうな笑顔を見せた。
五郎が迷い込む韓国領の島のコミュニティで暮らす女性、志穂を演じる内田は「他の現場で松重さんと共演させていただくと、本当に穏やかでやさしくて、いつも笑顔で話しやすくてステキな方」と俳優としての松重の印象を口にしながら、「そのままの監督。びっくりしました」と監督であったとしても変わらぬ松重の姿に驚愕しきり。「緊張をされていたり、イライラすることもない。いつも通りの松重さんで安心して身を委ねられました。あと演者さんですので、心が通い合うのが早い。いい瞬間を切り取ろうとしてくださる方で、時間をかけずに撮ってOKを出してくださる」と全幅の信頼を寄せて撮影に臨んだという。松重は「僕はシナリオを書いている時から、ラブレターを書いているような気持ちで。内田さんにやっていただけないかなと、返事を待つ間は高校生の男の子になったような気持ちでした」と照れ笑い。「そういう気持ちになるんだなと改めて思いました」と目尻を下げていた。
“究極のスープ”探しをする五郎を手伝うことになる青年・中川を演じた磯村は、五郎と対峙するシーンがあったという。「松重さんとは2度目の共演です。今回は五郎さんでもあり、監督でもある。対峙するシーンが終わって、『OK』というのを目の前にいらっしゃる松重さんが言う。この感覚はいままでになかった。あの迫力はまた味わいたいなと思うくらい新鮮でした」と俳優であり、監督である松重との共演は特別な経験になったと笑顔。「とにかく温かい現場で、スタッフさんを大事にされているのを見ると、それがそのままスクリーンに映しだされているよう。人の温かさ、食の温かさも届くと思う。僕はヒーローのように松重さんを見ていました」と尊敬の眼差しを向けた。松重は「磯村くんは若いのに懐が深くて、年寄りの面倒も見てくれる。老後はこういう人に頼った方がいいなと思って、磯村くん一択でお願いした」と楽しそうに話していた。
五郎のかつての恋人・小雪(さゆき)の娘であり、祖父である一郎(塩見三省)の依頼のために五郎をフランスに呼ぶ松尾千秋役に扮した杏は、フランスにおける撮影で松重と時間を共にした。「凱旋門をバックに井之頭五郎さんがいる。それだけで感無量でした」と胸を熱くした杏は、五郎の食べている姿が「おいしそうすぎて、匂いも感じられるのでお腹が空いて」と現場でも大いに食欲をそそられたそう。「巡りたくなる気持ちもわかる。同じものを食べたくなる」とシリーズのファンに心を寄せながら、「松重さんとは何度もいろいろな役でご一緒させていただいている。監督としてもオファーしてくださってとてもうれしい」と感謝を伝えた。「フランスのエッフェル塔の前で撮りたい」と希望した松重は、「とはいえ、フランスにもパリにも行ったことがない。パリと言えば杏ちゃんだろうと。シナリオハンティングの段階から杏ちゃんに連絡をして、『映画に出てくれない?そしておいしいスープを教えてくれない?』と無茶振りをした。それに応えてくれた。何度も親子役で共演をしていますが、持つべきものは“娘”だなと思いました」と存分に頼らせてもらったと、こちらもお礼を述べていた。
劇中に登場する中華ラーメン店「さんせりて」の店主を演じるオダギリは、もともとテレビシリーズのファンだったとのこと。自身も監督を務めることもあるオダギリだが、「映画としての『孤独のグルメ』を松重さんが完成させたということが、いちファンとしてもうれしかった。昔から俳優としても尊敬している松重さんが監督をされて、同じような悩みや苦労、楽しみを共有できたり、これからできるんだろうなと思うとすごく楽しみになりました」とにっこり。松重は、オダギリが脚本、監督、編集、出演を果たした「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」にも出演していたこともあり、「オダギリくんにはあの役をぜひやってほしかった。『オリバー』のなかで、ヤクザなのにラーメンを食べながらモノローグをしゃべるという、『孤独のグルメ』のようなことをNHKでやった。その貸しもあるので、受けてくれるかなという思惑もあった。すばらしい演技で返してくれた。感無量です」と心を込めていた。
松重が「一緒に仕事をしたい」と熱望した人ばかりが集まっていることがひしひしと伝わってきたが、松重は「大好きな人しかいません!大好きな人しか呼びたくない」と正直に打ち明けると、オダギリも「そうですよね。自分の大切な作品ですから」と共鳴。最後に松重は「スープ作りも、妥協の許されない店主の努力の結晶です。映画作りも同じで、おいしいスープを皆さんに提供するために、身を粉にしてスタッフ全員が頑張りました。キャストもすばらしい演技をしていただいています。温かい、ちょうどいい食べごろになっています。集大成になっています」と力強くアピールしていた。
取材・文/成田おり枝