菅田将暉&ヤン・イクチュン、5時間超『あゝ、荒野』は「肉体の映画」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
菅田将暉&ヤン・イクチュン、5時間超『あゝ、荒野』は「肉体の映画」

インタビュー

菅田将暉&ヤン・イクチュン、5時間超『あゝ、荒野』は「肉体の映画」

菅田将暉とヤン・イクチュンをダブル主演に迎え、5時間を超える大作『あゝ、荒野』(前篇は10月7日、後篇は10月21日公開)が完成。寺山修司が遺した長編小説を大胆に再構築し、都会の片隅に生きる人々の心を描き出す本作。寺山が生んだ物語が、今の世の中にどんなメッセージを投げかけるのか。菅田とヤンを直撃した。

主人公となるのは、少年院上がりで、自分自身でも持て余すほどのエネルギーを抱えた新次(菅田)。そして、引っ込み思案で吃音と赤面対人恐怖症に悩みつつも、人の温もりを求める建二(ヤン)。彼らがボクシングを通して、心の空白を埋めようともがく姿を描く。

全編、圧倒されるような熱量に満ちている。目をギラつかせた無鉄砲な若者・新次を体現した菅田は「半年かけて、ボクシングのトレーニングをやらせてもらえたことが大きい」とその熱量の秘密を語る。「撮影が始まる前だけでなく、撮影中もずっとトレーニングをしていました。ボクシングをしたり、鍛えたりしていると、体に緊張感がある。“今日は何時間シャドウボクシングをしたんだろう”と思うくらい、トレーニングしていることで、自然と滾るものがあるんです。体が変わってくるのもわかるし、“もっといける”と求めるものが生まれてくる。そういった高ぶる感情を大事にしていました」。

『息もできない』で知られるヤンは、日本語の演技にチャレンジ。人とのつながりを求める建二の、繊細な心のうちを表現した。「今回は準備することがたくさんありました」と苦笑いを見せるヤン。「日本語という言語の問題に始まり、体を作ること、ボクシングのテクニック。そして建二は床屋ですから、髪を切る手さばきも身につけなければなりませんでした。しかも吃音もち(の役柄)ですので。もうパニックです(笑)。宿題が山積みでした」。

そういった準備がありつつ、「建二として存在すること、建二の姿を見せることを最も大事にした」と役者魂を見せるヤン。「新次とは色々な感情のふれあいがありますが、映画で描写されていないところ、隠されたところでの新次との間にある気持ちのふれあいを大切にして、建二を演じました」。

1960年代後半、演劇・映画・文学とマルチに活躍し、今なおカルチャーアイコンとして人々を魅了する寺山修司。寺山を生みの親とする本作は、今の若者にどんな刺激を与えると感じているだろうか。ヤンは「文明が発達して、私たちはあらゆるものが自動化された世界に生きている。すべてが楽になる世界だと思っていたのに、私たちは今、新しいものに疲れてしまっている気がします」とじっくりと語る。

「この映画を観ると、“肉体の映画である”ということがよくわかります。例えばどこかに行くときには自分の足で歩いて行ったり、ドアを開けるときには自動ドアではなく、自分の手を使ってドアを開けるように描かれている。私たちは、そういった動作が恋しくなっている気もするんです。今、昔のレコード盤を聴いたり、フィルムカメラを好む人も多いですよね。そこには、自分の手で触ったり、努力する過程を取り戻したいという思いもあるのではないでしょうか。この映画では、しっかりと自分の力を使って生きている人たちの物語が描かれているので、そういったものを感じ取って、共感してくれたらいいなと思っています」。

菅田は「その言葉、すごくよくわかります」とヤンの話に大きくうなずき、「おそらく、そのバランスが崩れていることや、人とのつながりが薄くなっていることに気づいていない人もたくさんいると思う」と語る。「僕もこの世界に入るまではそうだった。お芝居を通して、時代を遡ったり、色々なことを知ることができたんです。なので、僕はそういった何かを伝えることに使命感のようなものがあって。今回は僕自身、人と人がぶつかった瞬間にしか生まれない熱や、美しさにとても感動したんです。観てくださった方が、奮起するような瞬間を与えられるような映画だと思いますし、そうなったらとてもうれしいです」。【取材・文/成田おり枝】

■菅田将暉
ヘアメイク:AZUMA(M-rep by MONDO-artist)
スタイリスト:二宮ちえ

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