安田現象が映画『メイクアガール』に込めた願い「夢との向き合い方についての問いかけをしたかった」

安田現象が映画『メイクアガール』に込めた願い「夢との向き合い方についての問いかけをしたかった」

天才科学少年と、彼が創りだした人造人間の少女が織りなす物語を、予測不能な展開で描く劇場アニメ『メイクアガール』(公開中)。アニメーション作家、安田現象が手がける初の長編アニメは、自身が制作し2020年に第29回CGアニメコンテストで入賞した短編アニメ『メイクラブ』をベースにしたフル3DCGアニメだ。

7歳の天才科学者・水溜明(声:堀江瞬)は人造人間のカノジョ「0号」(声:種崎敦美)を創り出す
7歳の天才科学者・水溜明(声:堀江瞬)は人造人間のカノジョ「0号」(声:種崎敦美)を創り出す[c]安田現象/Xenotoon・メイクアガールプロジェクト

舞台は現在より少しだけ先の未来。人々の生活をサポートするロボット「ソルト」の開発・製品化に成功した17歳の天才科学者・水溜明(声:堀江瞬)は、新たな発明に行き詰まりを感じていた。そんななか、明はクラスメイトから“カノジョ”を作ればパワーアップできるという話を聞き、人造人間のカノジョ「0号」(声:種崎敦美)を創り出す。順調に恋を育んでいくかのように思えた明と0号だったが、0号はプログラムされた感情と成長していく気持ちの狭間で葛藤するようになり…。

第37回東京国際映画祭でプレミア上映され、“主題歌ナシver.”が一足早くお披露目。公開を控えたいまも「なるべく感想コメントはまだ見ないようにしています」と明かした安田監督。「早く観てほしいですし、正直反応は楽しみです!」と本音を口にした安田監督に話を聞いた。

「自分が歩んできたなかで生まれたものを詰め込んで、新しいものを作りたかった」

【写真を見る】「友達をどう定義するのか」という思考実験から生まれた映画『メイクアガール』
【写真を見る】「友達をどう定義するのか」という思考実験から生まれた映画『メイクアガール』撮影/黒羽政士

「人間関係を介さずに友達がほしい」という考え方があり、「友達をどう定義するのかという思考実験の過程で、友達を科学的に作ってみることは話としておもしろい広がりをしそうだと思ったのが、物語の原点が組み上がったきっかけです」とコンセプトの始まりを振り返る。そのアイデアをもとに制作されたのが、本作のベースとなった短編アニメ『メイクラブ』だ。「『メイクラブ』は10万文字で書いた自主制作のラノベをベースにしています。『メイクラブ』で語りたかったことは、割ときれいに2分半でまとめることができたので、新しく長編を作るにあたりベースにするにしても、そのままはちょっと嫌だなと思って。当時自分が書いたものに、ここまでの自分が歩んできたなかで生まれた、いろいろなものをちゃんと詰め込んで新しいものを作りたい。そういう思いで『メイクアガール』の脚本を作りました」。

天才科学者として、ロボットや人工知能の研究に勤しむ明
天才科学者として、ロボットや人工知能の研究に勤しむ明[c]安田現象/Xenotoon・メイクアガールプロジェクト


脚本作りでは自身の一番の願いを込めた。その願いとは「自分の夢を叶えるために犠牲や代償を払い続けることの“グロさ”のようなものを定義、提示することにより、夢との向き合い方についての問いかけをしたかったんです」と告白。それは安田監督自身の経験がベースとなっていて「自分自身、創作活動をするなかで『これも代償にしてまで続けることなのか!』と思わされる瞬間はやっぱりたくさんあって。その気持ちを作品に直接落とし込み、観る人、そして自分自身にも『どうなの?』と訊きたかったんです」と説明。「お呼ばれはキリがないので、作業のために全部断る。ネットサーフィンしようものなら時間は湯水のごとく溶けてしまうから、朝起きたらすぐに制作用のツールを立ち上げて遵守する。気づけば朝は起きづらくなり、知らないうちに涙が流れているような、結構ちゃんと“ダメな状態”に陥っていました。でも、そういった生活を長く続けてしまったせいで、いまさら遊んでくれる友達もいないし、友達や人間関係を失うというのは当時の自分にとってはなかなか“くる”ものがあり…。自分の社会の一部という安心感を得るために、週に一度は商業施設まで足を運ぶという作業を課している時期もありました。課すくらいにしないと自分では動けない状態になっていたんです。それが当時の自分にとっては代償だったと思います」と懐かしみながらも「戻りたくはないですね」と苦笑した。

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