『満ち足りた家族』ホ・ジノ監督が投げかけたテーマと、チャン・ドンゴンが悩み演じた“大人としての親の姿”とは

インタビュー

『満ち足りた家族』ホ・ジノ監督が投げかけたテーマと、チャン・ドンゴンが悩み演じた“大人としての親の姿”とは

弁護士で野心家の兄ジェワン(ソル・ギョング)と、良心に従い生きる小児科医の弟ジェギュ(チャン・ドンゴン)。兄が若妻のジス(クローディア・キム)と娘ヘユン(ホン・イェジ)と高級マンションに暮らす一方、弟は年上の妻ヨンギョン(キム・ヒエ)と息子シホ(キム・ジョンチョル)、介護の必要な母と平凡に暮らしている。全く異なる暮らしぶりと考え方の2人だったが、夫婦で共にする月に一度の高級レストランでのディナーの夜、予想だにしなかった事件に直面する。

緊張感あふれる4人での食事シーン
緊張感あふれる4人での食事シーン[c]2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED

練り上げられた脚本とセンスの行き届いた演出。韓国映画界の重鎮たる名優を揃えたキャスト陣。『満ち足りた家族』(2025年1月17日公開)は、ひりつくような展開をみせながら社会批判も盛り込まれている堅実で成熟したサスペンスで、スペシャル・プレミアとして上映となった昨年の第29回釜山国際映画祭では全ての上映回が盛況、批評家からも好評を得た。今回、韓国映画界を代表する名匠ホ・ジノ監督と、5年ぶりのスクリーン復帰となったチャン・ドンゴンにインタビューの機会を得た。

「原作のテーマに韓国社会にある様々な問題点を盛り込みたかったです」(ホ・ジノ監督)

利益を優先する弁護士のジェワンにも葛藤はある
利益を優先する弁護士のジェワンにも葛藤はある[c]2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED

――企画がホ・ジノ監督に持ち込まれた経緯と、初めて『満ち足りた家族』の脚本を読まれたときのご感想を教えてください。

ホ・ジノ監督「脚本をもらい、本作を元にした海外の映画を観てから原作小説(オランダの小説家ヘルマン・コッホ作「冷たい晩餐」)を読んだんですが、以前の映画がよく出来ていたんですよね。当初は果たして自分がこの題材を上手く撮れるのかためらいました。でも、原作のテーマに韓国社会にある様々な問題点を盛り込むことができると思いました。それから、もらった脚本のタイトルが『普通の家族』だったんですが、映画に登場するようなキャラクターにおける“普通”という二重の意味、逆説的でもあるアイロニカルな意味合いに魅かれたんです。それで勇気を出して引き受けました」

――兄弟の職業の設定も、原作小説から変更されていますね。

ホ・ジノ監督「脚本の段階からすでに変更されていました。演出上で追加した要素は、撮影してから時間が経っていてあまり思い出せないのですが…大きく変わった部分があったとすれば、それこそが私が最も伝えたかったテーマだったと思います。弟のジェギュの家族で言えば、彼らはすばらしい善行をたくさんしていますよね。ジェギュも彼の妻ヨンギョンも多くの子どもたちの命を救ってきているのですが、これまでいいことをしてきたからといって、悪事が正当化されるのだろうか?そんな問題提起をしてみたかったんです」

【写真を見る】韓国を代表する美男俳優として一時代を築いたチャン・ドンゴンを直撃!
【写真を見る】韓国を代表する美男俳優として一時代を築いたチャン・ドンゴンを直撃!撮影/興梠真穂

――チャン・ドンゴンさんは本作のオファーを受けた理由を「これまで演じてきたキャラクターと違ってジェギュは周りにいそうな人物であり、人間の隠されている両面性を上手く見せてくれると思ったから」とおっしゃっていましたが、役作りのためにどんな準備をされましたか。

チャン・ドンゴン「過去に私が多く演じてきたのは、想像力を駆使して人物を作り上げ演技をしなければならない役柄でした。それとは違いジェギュは、私のなかにあるものから似たような要素を見つけ出して演じる作業が必要でした。ジェギュはとても正直で、原理原則が重要だと考えていて、善良なイメージを持つ人ですが、実は内面に弱さや少し卑怯なところがある。こういう人間はどこにでもいると思うんですよね。ジェギュというキャラクターを通じて、どんな状況に陥ったときにこうした人間の内面が少しずつあらわになるのか。俳優の立場からすれば、ジェギュはとてもおもしろいキャラクターなんです」

「私にも息子がいるので、ジェギュを演じながら結構苦しかったです」(チャン・ドンゴン)

性格が真逆な兄弟、とある事件をきっかけに葛藤が最高潮に達する
性格が真逆な兄弟、とある事件をきっかけに葛藤が最高潮に達する[c]2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED

――俯瞰ショットとズームアップの構図など、映像美やテクニックにもかなりこだわられていると感じました。

ホ・ジノ監督「俯瞰ショットは、観客に観察的な視点を与えてはどうだろうと撮影監督と話し合って取り入れました。また、キャラクターの感情のディテールを見せたかったのでクローズアップも多用しました。一番神経を使ったのは夫婦で共にする食事のシーンですね。カメラを3台ほど使い、俳優たちそれぞれの関係性をもう少しブラッシュアップして見せた部分がありました」

――本作は撮影現場で俳優の方々と意見交換をしながら一緒に進めていくことが多かったそうですね。特に話し合われたのはどこでしたか。

チャン・ドンゴン「私が覚えている限りでは、4人が食卓を囲むシーンについてはたくさん話し合いましたね。それからジェギュのターニングポイントをどこにするのかということでした」

ホ・ジノ監督「原理原則主義のジェギュが変わってしまったということを見せなければならないわけだからね」

チャン・ドンゴン「シホがかかわる出来事ですからね。ジェギュがいつ変わったのか、その正当性をどう表現するのか。何か直接的な方法ではなく、たとえば笑顔で表現するとか。それと気づかないような程度にするべきなのか。そんな議論が最も多かったと覚えています」

ホ・ジノ監督が最も伝えたかったテーマとは…
ホ・ジノ監督が最も伝えたかったテーマとは…撮影/興梠真穂

――ジェギュの変化は本当に見事でしたし、作品で重要なポイントだったと思います。チャン・ドンゴンさんは実生活でも父親ですよね。その点は役づくりに生かされたのか、それともだからこそ悩むことが多かったでしょうか。

チャン・ドンゴン「初めて脚本を読んだ時、ジェギュがどういう人物なのかとてもよく分かりました。私もいい人間であろうと努力し、特に他者からの視線なども当然意識しながら生きて、さらに子どもが生まれてからは一層気にするようになりました。しかし果たして私はいい人なのかどうか?そんなことを考えました。人間は皆、様々な感情があり、怒ったり悲しかったりという気持ちは大体似ていると思いますが、その人の人格や性格、イメージというものはある瞬間にどのような選択をして生きてきたかの積み重ねで出来上がるんじゃないでしょうか。『満ち足りた家族』の登場人物は皆、自分がよく生きようと努力し選択してきたごく普通の人々です。そんななかで自分の子どもの問題に直面する。私の決定で誰も知らないようにできる権限を得る。その時どんな行動をするのか?そこで露わになる汚れた本性が問題なんだと思います。私には息子がいるので、ジェギュを演じながら『もし実際こんなことがあったら…』と想像をしていたのですが、結構苦しかったですね」

良心に従い生きる小児科医のジェギュ
良心に従い生きる小児科医のジェギュ[c]2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED



「Pontaパス」で映画をオトクに楽しもう!【PR】

Pontaパス会員特典【au推しトク映画】概要
対象劇場 :全国のTOHOシネマズ、ローソン・ユナイテッドシネマグループ、コロナシネマワールド、OSシネマズなど
料金: 一般・大学生1,100円、高校生以下900円
※別途、追加料金が必要な特殊上映や特別席がございます。
対象: Pontaパス会員、同伴者1名まで特典がご利用いただけます。
利用条件: 会員ならいつでも、公開期間中何度でも対象の映画が割引となります。
事前購入: 各劇場のHPをご確認ください。
利用方法: 映画『満ち足りた家族』 auクーポンサイト


作品情報へ

関連作品