アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第35回 葡萄
MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第35回はついに生命体の正体が判明!?
ピンキー☆キャッチ 第35回 葡萄
「鈴香です」
「七海です」
「理乃です」
「私達三人合わせて『ピンキー☆キャッチ』です!」
十七歳の私達、実は誰も知らない、知られちゃいけないヒミツがあるの。それはね、、表向きは歌って踊れるアイドルグループ。
でも悪い奴らが現れたら、正義を守るアイドル戦隊『スター☆ピンキー』に大変身!
この星を征服しようと現れる、悪い宇宙人をみ〜んなやっつけちゃうんだから!
マネージャーの都築さんは私達の頼れる長官!
今日も地球の平和を守る為、ピンキー☆クラッシュ!
都築は見慣れぬデータ解析の用紙に囲まれていた。防衛省周辺に現れた謎の突起の中身が生物の卵である説が濃厚になり、その解析に立ち会って3日が過ぎた。解析班の読み通り、突起の振動は日に日に強くなっている。
「都築さんこちらを」
寝不足で目を真っ赤にした成宮が、突起物の写真を見せてきた。
「思ったとおりです。街中に出没していた怪人のバリア成分と、今回の卵の外殻の成分が一致しました。外からの衝撃防止はもちろん、X線で透過撮影できないのも、この成分が原因でしょう」
「なるほど、それでは攻撃するにしてもピンキー達の装備が無いと・・」
「はい。触れるのも難しいでしょう。しかし相手がどれほどの攻撃力を持った何者なのか、それがハッキリするまでは手を出すのは控えたほうがいいかと」
「確かにそうだ・・・」
「それと、先日検出された果物の成分なんですが・・」
「ああ、結果が出たんですか?」
「はい。こちらは葡萄の成分だったんです」
「ブドウ??」
「はい。しかしただの葡萄ではなく、それを上回るアルコール成分も検出されたんです。前に私達解析班も資料を見たのですがこれはもしかしてあの・・」
「アルコール?もしかしてと言いますと?」
「あの、大量に消えたシャンパンに関係があるのでは」
「ああっっっ!!」
解析班の見立ては恐ろしいものだった。おそらく例の卵で生物を育てるのに、地球でいうところの羊水として、大量のシャンパンが用いられているのではないかとの分析だ。異星人がこの惑星の環境で生き物を育てるのに最も適しているのがシャンパンなのかもしれないと。そう考えると現れた突起物の数やサイズに対し、盗難されたシャンパンの分量にも合点がいく。
「揮発成分であることの危険性も気になります。こちらもより詳細な分析を進めますが、都築さんはそれらを踏まえた上での防衛の準備をお願い致します」
「分かりました、引き続きお願い致します」
都築は吉崎と遠山をつかまえ、会議室で今後の策を練った。ピンキーと補助メンバーも含めた6名の装備の強化。そして先日失敗に終わった、メディアを通じてピンキーの活動も広く周知させようとの計画についても。敵側の規模がここまで大きくなってしまっては、正体を隠しながら戦うのは難しい。さらに危惧されるのは世間からの反発だ。彼女達を選抜せざるを得なかった理由はあるにせよ、まだ学生であるメンバー達に、国が危険な任務を背負わせてしまっている。どんな形にせよ非難はされるだろうが、まだこちらから進んで発表した方がその声を縮小できるに違いない。その線は吉崎が引き取ってくれた。
「とりあえずマスコミには私から連絡しよう。順番立てとして、まずは怪人達の脅威を知ってもらい、それらに対する手立てとしてメンバー達の存在と正体を詳らかにする」
「はい、その順番がいいと思います。あくまでも対策案として知ってもらった方が、反対論も抑えられるでしょうし」
「ただでさえ彼女達は討伐の危険を背負ってもらっている。いわゆる過激なアンチが出てきてしまっては余計な敵を増やしかねないからな。ここは迅速かつ慎重に進めよう。早速各局の報道局に連絡を入れてこよう」
吉崎が席を立ち、遠山と打ち合わせを続けていると、程なくして耳をつんざく様な館内緊急サイレンが鳴り響いた。
「都築さん、もしかして卵に何らかの動きが!」
身構える二人の元に、解析班の成宮が飛び込んできた。
「先ほど卵が破裂し、生命体が確認されました!無人カメラの映像をご確認下さい!」
「卵が!!? 遠山、行こう!」
防衛省内は蜂の巣を突いたような騒ぎで、各所が対応に追われていた。廊下に出ると吉崎も合流した。
「思ったより早かったが、マスコミへの連絡は済んだ。この緊急事態発令で各局担当者が飛んで来るだろう。まずはこの日本に迫る脅威の周知だ」
解析班に設えた大型モニターは、破裂の影響だろうか、まだモヤがかかり、現場の詳細は不明瞭だった。テントに囲まれているため風通しが悪く、少しずつ少しずつチリや埃が落ちていった。画面中央で何かがモゾモゾと動いたように見えた。モニター越しにもそれが小さくないサイズ感であることが分かる。画面を覆っていたモヤが徐々に落ち着き、生命体の姿が明確に確認できた。
「・・・!! 吉崎さん、これは!!!」
「都築・・・これは一体・・・ 何故だ。何故こうなったんだ・・・!」
一同はあまりの衝撃に身が固まり、まるで悪夢を見ているかのようにモニターを見つめたまま動けなかった。
(つづく)
文/平子祐希
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。