サンダンス映画祭グランプリのドキュメンタリー『ただ、愛を選ぶこと』家族の喪失と再生を追ったポスタービジュアル

サンダンス映画祭グランプリのドキュメンタリー『ただ、愛を選ぶこと』家族の喪失と再生を追ったポスタービジュアル

第40回サンダンス映画祭ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門で審査員大賞(グランプリ)を受賞したノルウェー映画『ただ、愛を選ぶこと』が、4月より日本公開されることが決定。あわせてポスタービジュアルが解禁された。

【写真を見る】『ただ、愛を選ぶこと』印象的なシーンを切り取ったポスタービジュアル
【写真を見る】『ただ、愛を選ぶこと』印象的なシーンを切り取ったポスタービジュアル[c] A5 Film AS 2024

本作は、新しい才能が発掘されることで知られるサンダンス映画祭で高い評価を得たドキュメンタリー作品。お金では買えない豊かさと自由を求め、美しい北欧の森で自給自足生活を送るペイン家。子どもたちは学校へ通うかわりに両親から学び、自然の恵みをいっぱいに浴びながら成長してきた。だがある時、家族の中心だった母の病死によって、すべてが一変。唯一父と血のつながりがない長女は家を去り、父は実子3人といままで通りの暮らしをなんとか守ろうとするものの、家計や教育の問題など、さまざまな現実の壁に直面する。初めての学校。なじみのない土地での新生活。そしてなにより最愛の母の不在。母と親交があったシルエ・エヴェンスモ・ヤコブセン監督が、一家のささやかだが勇気ある3年間の歩みを追いかける。

カメラが追うのは美しい北欧の森で自給自足生活を送るペイン家
カメラが追うのは美しい北欧の森で自給自足生活を送るペイン家[c] A5 Film AS 2024

製作のきっかけは、ペイン家の母で写真家のマリアがインターネットで発信していたシンプルで愛にあふれた暮らしに監督のヤコブセンが魅了され、ドキュメンタリー番組を企画したこと。その後、番組が実現する前にマリアが亡くなるという悲劇に見舞われるも、ヤコブセンはマリアのメッセージをより多くの人に伝えたいとの思いから、ペイン家の父と子ども4人の撮影を開始。1人ひとりに寄り添いながら、彼らがマリアの死に向き合い、前に進んでいく姿を記録した。さらにマリアが遺した、家族や自然への愛に満ちた詩的な文章と写真を全編に使用。第三者である監督の視点と母マリアの視点、現在と過去がゆるやかに行き来するユニークな構成も本作の見どころのひとつだ。

本作のタイトル『A NEW KIND OF WILDERNESS(英題)』の邦題『ただ、愛を選ぶこと』は、劇中に登場する母マリアが家族に遺した詩の一節「just simply choosing love」を採用。自然豊かなノルウェーの森で暮らしながら母マリアがつづった詩には、家族への愛情あふれる言葉であふれており、特に「love」は詩の中で多く使われ、マリアを象徴する言葉として登場する。図らずも、邦題『ただ、愛を選ぶこと』の一節は、母マリア亡き後、遺された家族がその死に向き合い、互いへの愛情と絆で困難を乗り越えていく姿を象徴する言葉だ。

またこのたび解禁されたポスタービジュアルでは、写真家だった母マリアが家族との愛に満ちた日々を撮影した実際の写真を使用。各写真には撮影日が刻まれており、彼女が発信していたInstagram風のデザインとなっている。ペイン家の父ニックと4人の子どもたち、末っ子のウルヴと長男のファルク、次女のフレイア、長女のロンニャの生き生きとした表情を捉えたマリアの写真は劇中にもたびたび登場する。

子どもたちは自然の恵みをいっぱいに浴びながら成長していく
子どもたちは自然の恵みをいっぱいに浴びながら成長していく[c] A5 Film AS 2024

ノルウェーの森で暮らす家族の喪失と再生を優しく描いた本作は、2024年開催の第40回サンダンス国際映画祭にて、ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門で「哀切極まりない感情と映像美に満ちている」(Variety)、「小さな家族の物語から、想像をはるかに超えた愛情が伝わってくる」(The Hollywood Reporter)と絶賛され、審査員大賞(グランプリ)に輝いた。同時にNHKが世界の優秀な教育コンテンツの発展のために創設した「日本賞」においても特別賞を受賞し、以降もシアトル国際映画祭、ノルウェーのアカデミー賞と呼ばれるアマンダ賞などでドキュメンタリー部門の最高賞を受賞。一部の映画祭では監督とともに登場人物のペイン一家も壇上に立ち、作品に共感した観客たちと交流する姿が話題になるなど、注目を浴び続けている。

最愛の人との別れと、その後も続く人生。冒頭こそ『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』(23)などを彷彿とさせる型破りでワイルドなライフスタイルに目が奪われる本作だが、家族の心の痛みと癒しをスクリーンで追体験するうちに観客の胸に突き刺さるのは『aftersun/アフターサン』(22)などと共通する、大切な人の愛情と思い出を抱えながら生きることのせつなさと尊さだ。


喪失の先にあるものとは?いまを生きることとは?スクリーンを通じて1組の家族が観客に問いかけるメッセージを受け取ってほしい。

文/スズキヒロシ

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