人とふれあう温かさとせつなさを味わい深く描く『サンセット・サンライズ』。菅田将暉×岸善幸監督×宮藤官九郎にインタビュー

インタビュー

人とふれあう温かさとせつなさを味わい深く描く『サンセット・サンライズ』。菅田将暉×岸善幸監督×宮藤官九郎にインタビュー

「俳優の演技は身体にも表れるんだなあと、改めて思いました」(岸監督)

 「芋煮会」は、登場人物それぞれが本音をぶつけ合う重要なシーン
「芋煮会」は、登場人物それぞれが本音をぶつけ合う重要なシーン[c]楡周平/講談社 [c]2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

――この映画には、三陸の料理がどれも美味しそうであるという魅力があります。それをひとつひとつ食べる菅田さんの「美味しい」という表現のバリエーションがすばらしかったです。

菅田「ありがとうございます。演じていて『おまえ、美味いしか言わないな』と指摘されたので(苦笑)、表現は考えましたし、リアクションもひとつひとつ作っていきましたが、自分としては平坦に演じたつもりでいました。呑み屋のシーンで次々と出される料理は、撮影直前に皆さんと現地で食事に行った時に出されたものが美味しくて、それが台本に反映されたこともありました。なので表情に出ていたとしたら、その時の記憶が表れたんだと思います」

宮藤「美味しそうに見えるように、画も作られていましたね。クライマックスの芋煮もそうでした。僕らが子どものころに体験した芋煮は、あんなに美味しそうじゃなかった(笑)」

菅田「そうなんですか!?芋煮というと良いイメージしかなかった」

宮藤「大人はお酒を飲みながら食べるので、味がどんどん濃くなっていくんです。しかもキノコみたいな、子どもが好んで食べないものも入っている。『なんでわざわざ山に登って、こんなしょっぱいものを食べるんだろう?』と子どものころは思っていました(笑)」

岸「しかも、大人は酔っぱらってケンカを始めるんですよ(笑)。そういのを子ども心に『メンドくせえなあ』とは思ってましたね(笑)」

宮藤「お店で呑んでるなら誰かが止めてくれるけれど、川辺だから誰も止めてくれない。その地に住み続けていたら、こんな大人になっていたかもと思うと、それが嫌で上京したのかもしれない(笑)。でもいま思い返すと、あれはあれで皆楽しそうだったなあという記憶もあります」

 サングラスとマスクで表情がわからないながらも、さすがの表現力を見せた菅田将暉
サングラスとマスクで表情がわからないながらも、さすがの表現力を見せた菅田将暉[c]楡周平/講談社 [c]2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

――この映画は2020年3月、つまりコロナ禍の初期に物語の始まりが設定されていますね。あのころの記憶を呼び起こすという点でも興味深いものがありましたが、表現のうえでどんなことに気を配られたのでしょう?

宮藤「やっぱり、マスクをするかしないか?ということですね。マスクを付けていない人に警戒心を抱く描写は、この作品じゃないとできないなあと思いました」

岸「地方だとマスク着用に対する目はもっと厳しかったですよね。とはいえ、役者さんにマスクを付けさせて、それで映画として成立するのか?という疑問はありました」

菅田「現場でも議論がありましたよね。『鼻マスク』と言われないギリギリの部分はどこだろう?」というような(笑)」

岸「そうそう。晋作が三陸に着いてから最初の14日間は、マスクだけじゃなくサングラスも着用して行動させましたが、それを演じる菅田さんを見て、俳優の演技は顔だけじゃなくて身体にも表れるんだなあと改めて思いました」

 『サンセット・サンライズ』(公開中)
『サンセット・サンライズ』(公開中)[c]楡周平/講談社 [c]2024「サンセット・サンライズ」製作委員会

いつの時代にも、どの場所でも不幸な出来事は起こる。それでも人間はもがきながら、喜びを見つけ出そうとする、計り知れないバイタリティを持っている。『サンセット・サンライズ』は、まさしくそんなことを伝える作品だ。笑い、泣きながら、生きていくことのリアルを感じ取ってほしい。


取材・文/相馬学

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