山田洋次監督、最新作『TOKYOタクシー』で木村拓哉と再タッグ!いままでにない木村拓哉の“素顔の魅力”を「盗み取りたい」
1月23日、東京都内で松竹創業130周年記念を記念した演劇、映画合同のラインナップ発表会が行われ、2025年から26年の注目作品が紹介された。松竹創業130周年記念作品として山田洋次監督がメガホンを取る『TOKYOタクシー』(11月21日公開)の公開決定が発表され、倍賞千恵子、木村拓哉が共演することが明らかとなった。山田監督、倍賞、木村は会見に出席し、本作に込めた想いを語った。
本作は、昭和から平成、令和と、日本に生きる人々を長年描き続けてきた山田監督が、刻々と変化する大都市「東京」を舞台に、人生の喜びを謳いあげる感動の物語。タクシー運転手の宇佐美浩二は、ある日、85歳の高野すみれを東京の柴又から、神奈川の葉山にある高齢者施設まで送ることになった。すみれは浩二に、いくつか寄り道を依頼する。次第に心を許したすみれは、自らの壮絶な過去を語り始める。偶然出会った2人の心が、そして人生が大きく動いていくことになる。撮影は今年の2月から4月を予定している。山田監督は「クランクインを間近に控えていますので、ゲートインした馬みたいなもの」と笑顔を見せた。
50年以上にわたって日本映画を支え続けてきた、倍賞。『武士の一分』(06)から19年ぶりに山田作品に戻ってきた木村。『ハウルの動く城』(04)で声の共演を果たしていた2人だが、実写での共演は初めてのこととなる。「松竹が創立して130年。すごいなと思いながら、今日はここに立たせていただいています。そのなかのどれくらい、私は松竹の映画に出たんだろう」と切り出した倍賞は、「大好きな木村拓哉くんと一緒にまたお仕事ができて、すごくうれしい。山田さんの作品で、とても楽しみにしています」と目尻を下げた。木村は「松竹130年周年のタイミングでまた参加させていただける。名誉なことだと思っています。気が引きしまっています」と力強く語った。
原作となるのは、監督、脚本、プロデューサーをクリスチャン・カリオンが務めたフランス映画『パリタクシー』(22)。山田監督は「重たい内容を持っているのに、とても軽快に楽しく観られる映画。どういう秘密があるんだろうと考えさせられた」と元となった映画の感想を語り、「いまは僕たちの国もそうだし、世界も重苦しい時代。先行きの知れない、とても辛い状態にいると思います。どうしても作られる映画も重くなるんだけれど、こんな時代だからこそ、軽やかに楽しくなれる作品を観たいなという気持ちが僕にもあるし、観客にもあるんじゃないか。そんなことを目指したいと思って、映画に取り組みました」と本作に込めた想いを明かした。
山田監督とは長きにわたってタッグを組んできた倍賞は、「いままでで初めて、セリフのなかで結構キツい言葉を発するおばあちゃん」と演じるすみれ役について楽しそうに紹介。「木村くんとは『ハウルの動く城』でご一緒させていただいて。ずっと一人でアフレコをしていた。すごくつまらないなと思ったんですよ。木村拓哉さんが相手なのに、一度も会ったことがなかった」と微笑みながら、「『どうして木村くんと一緒にアフレコできないの』とプロデューサーの鈴木さんに言ったところ『わかりました、今度ご一緒させます』と言ってくださった」と木村との当時の対面について回顧。階段を上がってきた木村の様子を振り返りつつ、「うわあ、カッコいいなぁ!と思った。少し歳を重ねたかなと思いますが、いまでもそのカッコよさは変わらなくて。待ち時間の間に、ふっと見たらメガネをかけて本をじっと見ている姿がとても印象的で。こんなに静かにしているんだ、こんなにステキなんだと思って感動しました」と愛情を傾けていた。
照れ笑いをのぞかせた木村は、「19年ぶりと聞かせていただいて、そんなに時間が経っているんだと自分でも驚く部分がある。山田組は緊張感はあるけれど、すごく温かい場所。話の中身は時代劇、現代ものという多少の違いはありますが、登場人物たちの心の流れや抑揚をすごく丁寧に導いてくれる監督。またあの時間を過ごせるんだと思うと、楽しみでしょうがない」と『武士の一分』以来の山田組への帰還に感激しきり。「倍賞さんは長きにわたって、山田組に咲き続けているお花だと思っている。今回の現場でどうやって咲き続けてくださるのかを、そばでずっと拝見させていただこうかなと思っています」と話し、これには倍賞も照れ笑いを見せていた。
木村がタクシー運転手のキャラクターを演じるのは、初めてのことだという。冴えない日々を送るタクシー運転手という役どころとなり、山田監督は「他の作品であまり見ることができないような、彼のやさしい面や温かい面を盗み取りたい。いままでにない、木村拓哉くんの運転手さん(を見たい)」と意気込み。宇佐美浩二という役柄は「娘が一人いて、恋女房がいて、小さなうちにいる」そうで、「一生懸命に日常を生きているという、平凡な人になった木村拓哉くん(を見たい)。人に見せないような素顔がふっと出てくると、とても魅力的だなと思っている。それは僕が、素顔の彼に接しながら感じ取ることでもある。いままでの木村拓哉の主演映画にはない魅力を盗み取りたい、奪いたいという気持ちでおります」と新境地に期待していた。
木村は「昨年の年末から今年の年始には、いろいろなバラエティ番組に参加させていただいて。その番組のなかでいろいろな一般の方とお話をさせていただいている、自分の素の部分を監督が見てくださったらしく。『すばらしかったよ。ああいう木村くんがいいんだよな』と言っていただいた」と裏話を告白。「いままでに見たことがない顔だった」と山田監督が印象を口にするなか、木村は「監督が魅力的だとおっしゃってくれた自分の部分を、いい形で彼に投影できたらいいなと思っています。個人タクシーの運転手という形は、いままでに経験をしたことがない。この作品に入るという状況になってからは、休憩中のタクシードライバーの皆さんなどに意識がいくようになっています。彼がいろいろと抱える想いや、すみれさんと出会って新たに気づいていく部分など、共演者の方達と一つ一つ丁寧に積み重ねていけたらいいなと思っています」と宣言。終始、山田監督や倍賞と柔らかな笑顔を見せ合うなど、感激と充実感をにじませていた。
また1865年にルイス・キャロルによって生みだされた名作「不思議の国のアリス」を日本で初めて劇場アニメーション化する『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』(8月29日公開)から、声優を務める原菜乃華、マイカピュも出席した。本作の主人公は現代の女の子、りせ。ワンダーランドに迷い込んだ彼女がアリスと出会うことで物語が動きだしていく。監督は「色づく世界の明日から」や「白い砂のアクアトープ」の篠原俊哉。脚本を「薬屋のひとりごと」、「アオのハコ」の柿原優子が担当。アニメーション制作を「SHIROBAKO」や「スキップとローファー」などで知られるP.A.WORKSが手掛けるなど実力派が集結した。
『すずめの戸締まり』(22)で主人公の声優に抜てきされた原が、りせを演じる。「声のお芝居は2度目の挑戦になるんですが、まさかまたお話をいただけるとはまったく思っていなかったので、とてもうれしかったです」と感無量の面持ちの原は、「久しぶりのアフレコでもあったので、不安な気持ちもありました」とコメント。「大好きなアニメーションの現場に携われるのがすごくうれしい。いつまでも続いてほしいくらい、幸せな時間でした」とアフレコを述懐して、喜びをあふれさせた。マイカピュも「声のお仕事は好きです。初めてやるのでちょっと緊張しましたが、やれてよかったです」とにっこり。「いろいろな人に観てもらいたい」と心を込めていた。
さらに原は「マイカちゃんは本当にかわいらしくて。最初からいっぱい話してくれたよね」とマイカピュと顔を見合わせ、「『お腹が空いたね』と話すと、『これあげる』とお菓子をくれたり、好きな色の輪ゴムを使ってアクセサリーを作ってくれました。かわいくて大好き」とかわいらしいエピソードを明かすと、マイカピュも「一緒にやっていると心強くて楽しかったです」と意気投合。原は「篠原監督の描くワンダーランドのうっとりするくらい美しい世界観に癒されながら、ハッとさせられる気づきをくれる映画。たくさんの世代の方の心に届く作品だと思っています」と熱っぽくアピールしていた。
取材・文/成田おり枝