松坂桃李、『雪の花』5度目共演の役所広司から熱い賛辞!「今日はゆっくり寝られそう」
小泉堯史監督が吉村昭の同名小説を映画化した『雪の花 ―ともに在りて―』の公開記念舞台挨拶が1月24日に丸の内ピカデリーで行われ、松坂桃李、芳根京子、役所広司、小泉監督が出席した。
江戸時代末期を舞台に、多くの人命を奪った天然痘と闘った1人の町医者の実話を描く本作。使命感にあふれる福井藩の町医者の笠原良策を松坂、彼を支える妻の千穂を芳根、良策が教えを請う京都の蘭方医・日野鼎哉を役所が演じている。上映後の会場に姿を現した松坂は「時代劇は芳根さんとご一緒させていただいた『居眠り磐音』以来。6年ぶりくらいになります。改めて時代劇ってやっぱりいいなと思いました」と晴れやかな笑顔。「皆さん、いかがでしたでしょうか」と語りかけ、会場から大きな拍手を浴びた。
小泉監督がまとめる健やかな現場で、「充実した時間を過ごした」という松坂。実在した笠原良策という役柄を演じるなかで「未曾有のウイルスをどうやって治していったらいいかというプロセスが、やはりとても大変なことだったんだなと演じてみて改めて実感した。未知なもの、不安なものに対して感じる恐怖はいまも昔も変わらないと感じた」といい、良策が過酷ななかでも諦めずに挑戦し続けられたのは「すばらしい妻がいたからなんだなと思っています」と芳根が演じた妻の存在に触れた。
芳根は、劇中で和太鼓の演奏や殺陣に挑戦した。芳根は「殺陣のシーンでは、監督が『芳根京子はこんなもんじゃない』と言ってくださった。太鼓の練習場にも何度も来てくださって、練習の経過を見てくださった。監督が鼓舞してくださることが、モチベーションに繋がっていた」と感謝しきり。マイクを手にしながら「こういった細長いものを持つと、手首の角度がすごく蘇る」といまでも体に染み付いているという。
松坂は「ずっと手首がテーピングだらけで、どれだけ大変なことだったんだろうと肌で感じていた」と影で太鼓の練習を重ねた芳根の努力を称え、「撮影もすごかった。圧倒された。撮影が終わった時には、芳根さんは泣き崩れるようになって。あれは忘れられないです」と回顧。芳根は「あのシーンで、良策さんの笑顔を見られたこともうれしくて。私が笑顔にしたぞ!とうれしくなりました」と妻としての想いも原動力となった様子だ。
主演の松坂と役所は、本作で5度目の共演を果たした。役所は「誠実で、志に向かって諦めない男。松坂くんにぴったりだと思います。普段の松坂くんはいい人かどうか知りませんが」と続けて松坂と観客を笑わせながら、「とにかく良策という役は、ものすごく松坂くんに合っている。松坂くんしか思い浮かばないような役だったと思います」と絶賛。司会が「男が惚れるような男」と表すと、役所は「惚れちゃう感じがします」と楽しそうに目尻を下げた。
「今日はゆっくり寝られそう」と喜んだ松坂は、「役所さんが演じる鼎哉先生の言葉で、『名を求めず、利を求めず』という言葉がある。そのセリフが聞こえてきた瞬間に、役を飛び越えて、僕に言われているような刺さり方をした。いままでこの仕事をさせていただいて、この感覚はいままで味わったことがなかった。役所さんの目を見てお芝居をさせていただいて、その言葉が出てきて、グサッと刺さった。それが今でも残っている。5度目の共演ですが、毎度セリフの受ける印象が違う。今回は僕自身にも来るようなものがあった。すごかったです」と惚れ惚れ。「毎日、いい時間だった」と続けると、役所は「先輩を立てて、褒めてくれてありがたいですよね」と照れ隠しのように語り、「本当かな?」と茶目っけたっぷりに笑う。松坂が「本当ですよ!すごく楽しかったですから」と応じるなど息の合ったやり取りで、会場を沸かせていた。
巨匠・黒澤明監督の作品で長年助監督を務め、黒澤監督の“最後の弟子”とも言われている小泉監督は、「黒澤さんが好きで、ずっとそばにいた。褒めてもらいたいなと思いながら、助監督の仕事もやっていた。この作品ももし褒めてくれたらうれしいなと。スタッフ全員が影響を受けているので、黒澤さんがどこかいいところを見つけて褒めてくれたらこんなにうれしいことはない」と吐露。本作には、黒澤組で使用されていた小道具の「薬研(やげん)」が登場しているそうで、「毎回なにかを使っています。黒澤組のものを使ったり、ああいうことをするのが楽しみなんですよね」と微笑み、「『赤ひげ』で三船敏郎さんが使っていたやつ」と明かす場面もあった。
『影武者』から『まあだだよ』までのすべての黒澤組のキャメラマンを務め、『雨あがる』以降、小泉監督作品では本作まで全作の作品を担当した撮影監督の上田正治さんが、今年の1月16日に87歳で逝去。本作は、上田さんの最後の作品となった。「昨日葬儀が終わりました」と切り出した小泉監督は、「50年近く、ずっと一緒にやってきた。残念です。本当にすばらしいキャメラマンで、黒澤組でも大事にされていた。黒澤さんはよく『キャメラは芝居をしてはいけない』と言う。それはすごく難しいんですが、俳優さんを素直に撮るキャメラマンはそういない。これからはフィルムで撮れる、彼のようなキャメラマンはいない。本当に惜しい人を亡くした。これが最後の作品になります。このよさはスクリーンでなければ観られない」と哀悼の意を表した。松坂も「上田さんにしか撮れない作品。この作品で初めてお会いしましたが、現場では山の大変なロケ場所でも、カメラを担いで自分で行ったりと、すごいエネルギーとパワーで撮影現場にいました。その姿を見ることができてすごく幸せだった」と心を込めていた。
取材・文/成田おり枝