「やがて訪れる死を前にして、人はどう生きるか」死生観を深く考える『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』ティルダ・スウィントンにインタビュー
「デザイナーが映画に関わることはとても意味があり、長く続いてきた伝統」
劇中には、マーサとイングリッドが好んで着る赤と青、または緑、印象的なインテリアや絵画、そして、小説や映画がテーマに直結するメタファーとして登場する。いまに始まったことではないが、その中にはアルモドバルがスペインの自宅から持ち込んだ私物も含まれている。衣装にも強いこだわりがある彼は、ティルダの好みではないロエベのニットセーターを強引に羽織らせたらしいが、それは本当なのだろうか。「それは逆なの。ある土曜日、ロエベであのセーターを買って、翌日それを着てリハーサルに行ったら、ペドロが”それ、劇中で着てもらうために買おうと思っていたんだよね”っていうじゃない!?結果的にそれを着ることになり、だったら自分で買わなければよかったと思いました(笑)。たから事実は逆です。そもそも自分が好きで買ったセーターだったから」。
ティルダ・スウィントンと言えば、現役最高峰のファッショニスタだ。そんな彼女から見た映画とハイブランドの蜜月関係はどんな風に映るのだろうか。「ルカ・グァダニーノの最新作『クィア』は、衣装をロエベのクリエイティブ・ディレクターのJ.W.アンダーソンがデザインしていますよね。かつてルカと組んだ『ミラノ、愛に生きる』の衣装は、当時ディオールのデザイナーだったラフ・シモンズでした。デザイナーが映画に関わるというのはとても意味があり、長く続いてきた伝統でもあります。『ミラノ~』のヒロインは閉所恐怖症のようなところがあり、ある意味一貫性のあるルックが求められていたのですが、ラフ・シモンズは要求に見事に応えていたと思います。すでに撮り終えている私の次回作『THE END』はジョシュア・オッペンハイマー監督のSFミュージカルなのですが、女性の衣装はすべてシャネルにお願いしました。それもまた一貫性であり、一つのジェスチャーを持たせたかったからなのですが。映画に登場する人物のために特別に服をカスタマイズするというのは、デザイナーにとっても興味深いプロジェクトなのではないでしょうか」。
ルカ・グァダニーノ、ウェス・アンダーソン、そして、ペドロ・アルモドバル。いま、ティルダを必要としている監督、またはティルダが必要としている監督たちに共通点はあるのだろうか?「必要としているなんて、絶対に彼らには言わないでね、なんてこと言うんだって思われるから(笑)。3人に共通点があるとしたら、彼らの映画はすべてファンタジーで、それぞれにこだわりのカラーパレットがあって、それはいつだってとてもとても重要で、画角が少しだけ誇張されていることでしょうか。でも、仕事のやり方は個々違っていて、ペドロとウェスは自分が求めているものが明確で、ルカは少し緩めに羊の群れをまとめてとりあえずゴールに向かう感じかもしれません」。
カンヌやベネチアに毎年新作を提げて現れ、誰よりも早く話題作をチェックしているティルダが選ぶ、現時点(昨年11月末時点)での2024年のベストムービーを聞いたところ、即座に2作品を挙げてくれた。1本は昨年のベルリン国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』(2月21日公開)で、もう1本は今年のゴールデン・グローブ賞でフェルナンダ・トーレスがドラマ部門の主演女優賞に輝いた『I’m Still Here』だ。トーレスが受賞した瞬間、マーサ役で同部門の候補に挙がっていたティルダの喜びようは半端なく、彼女が本物のシネフィルでもあることがわかって、少し胸が熱くなったのだった。
取材・文/清藤秀人