“美と若さ”への執着が呼び起こす狂気とは?『サブスタンス』ティザーポスタービジュアル&特報
第97回アカデミー賞にて、作品賞、主演女優賞、監督賞、脚本賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の計5部門にノミネートされた、デミ・ムーア主演の話題作『サブスタンス』(5月16日公開)。このたび、本作のティザーポスタービジュアルと特報映像が解禁された。
50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベス(ムーア)は、容姿の衰えから仕事が減少し、ある再生医療“サブスタンス”に手を出す。すると治療薬を注射するやいなや、エリザベスの上位互換体“スー(マーガレット・クアリー)が、エリザベスの背を破って現れる。若さと美貌に加え、エリザベスの経験を武器に、スーはたちまちスターダムを駆け上がっていく。だが、1つの心をシェアする2人には「一週間ごとに入れ替わらなければならない」という絶対的なルールがあった。しかし、スーが次第にルールを破り始めてしまう。
主演は、“美&若さ”への執着を怪演で見せつけ、45年以上のキャリアを塗り替える代表作へと押し上げたムーア。かつて「ポップコーン女優」と呼ばれていたと明かすほど悩んでいたキャリアを自らの力で乗り越え、再評価を獲得した。アメリカでは「デミッセンス」(デミ・ムーアのルネッサンス)という造語が世界中のメディアを騒がせる、いま最も旬な女優の1人となった。共演は、昨年話題を呼んだヨルゴス・ランティモス監督の『哀れなるものたち』(23)にも出演し、弾けるような若さと美貌でムーアに対峙するマーガレット・クアリー、そして監督と脚本を手掛けたのはフランス人監督コラリー・ファルジャ。
ファルジャ監督は本作を執筆した理由を「年齢、体重、身体の輪郭などが、その“理想の”型から外れていく時、世間は、『お前は女としてもう終わりだ』と私たちに宣言します。これこそが女性の監獄」と断言。「『本作は、これを吹っ飛ばす時が来た』と宣言しています。2024年になってまで、こんなにくだらないことが続いていること自体が、ちゃんちゃらおかしい」と爽快に言い放つ。美への執着と、成功への渇望がせめぎ合い、やがて狂気が侵食していく。
解禁されたティザーポスターは、まっすぐ見据えるエリザベスを正面から捉えたド・アップと、不穏な違和感が。そして、彼女の左の瞳が2つに分裂を始めている。若さを失った彼女は、“どこ”を見据え、「サブスタンス」で”なにへ”と変化しようとしているのか?上下にデザインされたポップなピンクカラーの帯に制御されている、彼女の強い自己愛と不安と期待と狂気が、いまにも突き破って暴走しそうな圧とインパクトが強いビジュアルとなっている。
特報は「より良い自分を夢見たことは?」、「もっと若く、もっと美しく、より完璧に」と、女性たちをじりじりと真綿で締めつける呪いの問いかけから始まる。そこから、エリザベスと若く美しいスーが「暴走して、阿鼻叫喚」へと、全力で突き進む様が垣間見られるようなポップで刺激的かつカオスな映像が、加速度的にたたみかけていく。怪しげなライトグリーンの液体、“バービードール“のような完璧なスタイルのスーの特別な存在感、「可愛い子はいつも笑顔で」とゲスな笑みで軽口を叩く男たち、それらに相反するかのようなエリザベスの陰鬱で深刻な表情と、不穏な動き。「脳裏に焼き付く」、「最高に新しい」、「ロックでゴージャス」と、世界中から送られた強烈な賛美が、これから始まる狂気の異常事態を予告するかのような映像となっている。
脳裏に焼きつくような衝撃的なラストシーンから、一度見たら逃れられない、想像のはるか先で暴走する狂気のエンタテインメントである本作。今後の続報にも期待したい。
文/山崎伸子