哀しき怪物の異色青春ホラー『怪怪怪怪物!』[最速レビュー!東京国際映画祭]
とんでもない映画がやってきた。2011年にアジア圏で大ヒットを記録して、その年の東京国際映画祭でも大きな話題を集めた『あの頃、君を追いかけた』。先日、日本版リメイクが制作されることでも話題を集めた同作を生み出し、自ら監督も務めたギデンズ・コーが完全オリジナル脚本で新作を発表するとなれば、今年の映画祭の目玉作品となるのは至極当然だ。
いじめられっ子のシューウェイは、3人のいじめっ子とともに社会奉仕活動を命じられ、老人たちが暮らす古ぼけた建物で手伝いをすることに。すると、そこで2体の怪物と遭遇。その片方を捕まえた彼らは、隠れ家である廃プールの更衣室でその怪物を拘束し、様々な実験を重ねる。そんな中、もう一方の怪物が、彼らを追って夜な夜な街を襲い始めるのだ。
爽やかな青春模様を綴った前作とは180度方向転換し、冒頭からスプラッタ・ホラーのようなグロテスクな描写で、ダークな世界観を作り出す。怪物がエレベーターの上に住んでいて、ダンボールを寝床にしているという設定に、ミステリアスな音楽。日本で90年代後半に到来したホラーブームにあやかって、2000年代前半にアジアで流行したホラー作品を思わせる独特な雰囲気だ。
そんなホラー描写と同時進行で、主人公たちの物語が進む。序盤の教室シーンの猥雑な空気感や、小刻みにカットが割られたり、前後に動くカメラワークは前作と同じだが、リアルな“悪ガキ”の描き方は、こちらのほうが過激で露悪的。いくらヒロイン格の女子生徒がどう見ても可愛いからといって、序盤の彼らの行動を観ていれば、必然的に何らかの罰がくだることを期待せずにはいられない。
捕らえられた怪物の正体が、数十年前に殺された呪術師の娘姉妹だと知りながらも、自分たちとは異なる生物であると虐待を続ける少年たち。この、いじめっ子といじめられっ子が、新たないじめの標的を見つけて仲間意識を持ち始めるプロセスは、ギデンズが若者たちのカリスマとして崇められるひとつの所以ではないだろうか。リアルに、若者たちの世界にはびこる閉塞的な視点を描く。それが観客たちに少しばかりの不愉快さを与えているのだから、なおさら巧い。
やや暴走気味にも見える虐殺シーンと、結末。まったくスッキリもしない不穏な気持ちのまま、観客は劇場を後にしなければならないから、それなりの覚悟が必要だ。それでも、作品の目玉となる人体発火の場面は、なかなかの迫力で、実に映画的な魅力を携えている。
作家としても映画監督としても、ギデンズ・コーがどんな物語を今後紡いでいくのか期待しておきたい。台湾の青春映画といえばウェイ・ダーションやジョウ・グータイといった多彩な才能が次から次へ現れ、ポスト“ホウ・シャオシェン”の座を狙っている。そこにまったく異色な、新たなパターンを築き上げたギデンズ。これはもしかすると、今後の台湾映画界の重要な一本になるかもしれない。【文・久保田和馬】