アニメに思い入れはない!?原恵一のルーツに町山智浩が迫る

映画ニュース

アニメに思い入れはない!?原恵一のルーツに町山智浩が迫る

現在開催されている第30回東京国際映画祭のアニメーション特集「映画監督 原 恵一の世界」。10月31日(火)の第6日目はリアリズムにこだわった異色作『カラフル』(10)が上映され、映画評論家の町山智浩とのトークショーでは同作の製作秘話や、映画監督としてのルーツが語られた。

左から映画評論家の町山智浩、原恵一監督
左から映画評論家の町山智浩、原恵一監督

食事シーンの描写をなるべく丹念に

『カラフル』は、自殺やいじめ、家庭内不和や浮気、援助交際などを扱い、登場人物の心の動きが丁寧に描かれた作品。罪を犯したある人間の魂が現世に戻るため、自殺を図った少年・真の身体に入り、彼が抱える問題と向き合っていく。

【写真を見る】『カラフル』では東京郊外の二子玉川など現実の風景を正確に再現し、登場人物たちの鬱屈した感情や心の葛藤を描いた
【写真を見る】『カラフル』では東京郊外の二子玉川など現実の風景を正確に再現し、登場人物たちの鬱屈した感情や心の葛藤を描いた[c]2010 森絵都/「カラフル」製作委員会

製作にあたって「アニメが得意とする派手な表現を抑えた」と話す原監督。「『カラフル』は実写作品の感覚で作ろうと思いました。シリアスな問題を扱っているので、家庭の日常、特に食事のシーンをなるべく丹念に描いて、いびつな親子関係を印象付けようとしましたね」と言う。

その食事シーンについて町山は「印象的だったのはクライマックス」と返す。「クライマックスと呼べるのは家族でお鍋を囲むシーンですよね。普通なら大迫力のアクションシーンで盛り上げるところなのに、すごい決断だと思ったんです」と驚きを隠せない。

このことについて監督は「食卓がいつもの温かな場所に戻ることが、この物語の救いだと思ったんです。だから、お母さんの手料理を真が拒否するシーンを何度も積み重ねました。それで、最後にお母さんが作ったお鍋を真が口にして『おいしい』と言う。そこにたどり着くために、日常のシーンを丁寧に描きましたね」と演出方法について詳しく説明した。

アニメーションに思い入れがない!

実写的な作風について監督は「僕は基本的にアニメーションを監督していますが、そこまで思い入れはないんですよ」と突然の爆弾発言で会場をどよめかせる。「絵コンテはいつも実写のつもりで描いてます。それで、ラッシュ(作成したアニメをチェックする作業)のとき『ああ、アニメだった』って思い出すんです(笑)」

山田太一のドラマが大好き!

『カラフル』の演出に思うところがある町山。「主人公が母親の浮気を目撃する場面や、家族の裏側を描く展開に、僕は山田太一さんのドラマを思い浮かべました」と主にTVドラマで活躍していた名脚本家の名を挙げる。また「以前、原監督は『木下恵介監督の映画が好きだ』とおっしゃっていましたが、僕らの世代が映画を見始めた時には、木下恵介は映画ではなく主にTVドラマを作っていましたよね。ドラマを手掛ける木下恵介に触れたのが最初のはずなのに、どうして映画監督として尊敬しているのか不思議だったんです」と疑問を投げかける。

原監督の作風に脚本家・山田太一の存在があることを言い当てた町山智浩
原監督の作風に脚本家・山田太一の存在があることを言い当てた町山智浩

すると監督は、「僕が小学5年生の頃に放送していた『木下恵介アワー』の『二人の世界』というドラマがとても好きでした。それら木下作品の脚本を書いていたのが山田さんだったんです。山田さんの作風にはすごく影響を受けていると思います」と自身のルーツがTVドラマにあることを明かす。その言葉に町山は「『カラフル』の食卓のシーンを見て、正に“山田太一さんの世界”だと思いました!」と興奮気味に応える。

映画としては、黒澤明監督の『用心棒』(61)にも衝撃を受けたと話す原監督
映画としては、黒澤明監督の『用心棒』(61)にも衝撃を受けたと話す原監督

「山田さんとは一度対談の機会がありまして。その前に、僕を知らない山田さんが『(原監督の)作品を見せてくれ』とおっしゃって『河童のクゥと夏休み』(07)と『カラフル』をご覧になったそうです。それで『この人となら会いたい』と言っていただいたんです!」と、監督は憧れの存在との思い出を目を輝かせながら語っていた。【取材・文/トライワークス】

作品情報へ

関連作品

  • カラフル

    3.0
    5
    直木賞作家、森絵都のベストセラー小説を原恵一監督がアニメ映画化
    U-NEXT Hulu