『ザ・サークル』はエマ・ワトソンの成長物語。監督が現代社会風刺に隠した真のテーマを明かす
『美女と野獣』の大ヒットが記憶に新しいエマ・ワトソンと、ハリウッドを代表する俳優トム・ハンクスが共演した『ザ・サークル』(11月10日公開)。公開に先駆けて、監督のジェームズ・ポンソルトが来日し、SNS社会に警鐘を鳴らす同作に込められた真のテーマを語った。
本作はピューリッツァー賞にノミネートされたデイヴ・エガーズのベストセラー小説を原作にしたサスペンス。巨大SNS企業<サークル>に入社した主人公メイ(エマ・ワトソン)は、カリスマ経営者のベイリー(トム・ハンクス)の目に留まり、同社が運営するSNSの理想を追求するために、24時間365日、自分の生活をネット上に公開することになるのだ。
来日中に見つけた気になるものを、自身のインスタグラムに投稿するなど、プライベートでSNSを愛用しているポンソルトは「ハマりやすい性格だから、適度に使おうと心がけている」と、照れ臭そうに笑いつつも「SNSは人間の生活の延長線上にあるが、リアルでのやり取りの代用には絶対ならない」と断言する。
劇中ではSNSのネガティブなイメージが描かれていることについて「使う人によって良い使い方と、悪い使い方があると思うんだ」と慎重な姿勢を貫くポンソルト。現実世界でも、SNSが“監視社会”の一端を担っていることについては「誰かに情報を盗み取られているのではなく、自分たちが自発的に個人情報を明け渡している。それが今の監視体制を成り立たせていることを忘れてはいけない」と持論を力強く述べた。
そして、近未来SFのようにも社会派サスペンスのようにも見える本作を「メイの成長を描いた物語」だと表現したポンソルト。「様々な要素がある作品だが、それはメイの視点から描いているから誇張しているように見えるんだ。仕事の面では成功していく彼女が、人間関係を破滅させていく、そんな姿を風刺とユーモアを持って描きたかった」と説明した。
ポンソルトはこれまで、アルコール中毒の女性を描いた『スマッシュド〜ケイトのアルコールライフ〜』(12)や、青春を謳歌し続けたいと願う高校生を主人公にした人気作『スペクタキュラー・ナウ(原題)』(13)、作家と記者の旅路を描いた実話を基にした『人生はローリングストーン』(15)と、多様なジャンルに挑み、インディーズ界を中心に高い評価を集めている。そんな彼が、映画で描きたい一貫したテーマは「それぞれが持っている欠陥との向き合い方」であると語る。
「自分ではない他人や、いま自分がいない場所のような抽象的な存在から答えを求めようとしても、何も見つけることはできない。そんな人物を描いていくことに興味があるんだ。僕の作品を通して、自分を成長させるのは自分自身なんだと気付いて欲しい」と、本作に込められた真のテーマについて語った。
また本作は、実力派俳優の共演が見どころのひとつとなっている。トム・ハンクスのことを「大好きな役者です。一緒に仕事ができて光栄に思う」と、笑顔を見せたポンソルトは「カルトリーダー的な素質を備えている彼は、とても役柄を理解してくれていた。ある意味ではこれまで彼が演じてきた人物を、悪の方向にいじったキャラクターかもしれないね」と愛情たっぷりに語った。
一方、主人公を演じたエマ・ワトソンといえば「ハリー・ポッター」シリーズでのハーマイオニー役のイメージが非常に強い。「彼女は10歳の時からたくさんの人の目に晒されながら大人になってきた」と、役柄と実際の彼女との共通点を挙げた上で「そういう育ち方をしているから、人目に晒されるSNSの使い方も理解しているし、作品のテーマへの理解度が非常に高い」と、クレバーな女性に成長したワトソンを絶賛。
メイの友人として、SNS社会の手厳しい洗礼を受けるマーサーを演じたエラー・コルトレーンもまた、リチャード・リンクレイター監督の野心作『6歳のボクが、大人になるまで』で成長を記録されてきた俳優だ。映画を通して人生を“監視”されてきた若手俳優ふたりの存在によって「観客は身近な存在として彼らを観ることができるから、物語に共感しやすいのではないだろうか」と推測するポンソルトは「そういえば『6歳のボクが、大人になるまで』で、ハリー・ポッターの映画を観に行くシーンがあったね!」と、映画と現実がリンクした偶然を楽しそうに語った。【取材・文/久保田和馬】