夏帆が黒沢清監督の現場に感激「神聖な場所でした」

インタビュー

夏帆が黒沢清監督の現場に感激「神聖な場所でした」

劇団イキウメの人気舞台を黒沢清監督が映画化した『散歩する侵略者』(公開中)。本作のアナザーストーリーを描くスピンオフドラマが『予兆 散歩する侵略者 劇場版』として11月11日(土)より公開される。本作で主演を務めた夏帆と、メガホンをとった黒沢監督にインタビュー。

夏帆演じる主人公・山際悦子は、夫・辰雄(染谷将太)から紹介された新任外科医・真壁司郎(東出昌大)の異様な存在感を不審に思う。その後、辰雄は体調や精神状態が不安定になっていく。ある時、悦子は真壁から「地球を侵略しに来た」と告げられ、激しく動揺する。

ドラマ「みんな!エスパーだよ!」シリーズで幼馴染という役柄を演じてきた夏帆と染谷将太。今回は初の夫婦役ということで夏帆は「最初はちょっと照れくさかったです」と笑う。

「染谷くんは年下ですが、頼り切っていました。染谷くんがいるとすごく安心するんです。お芝居上だけではなく、何があっても動じないというか、たとえ動揺していたとしてもそれが見えにくいんです。言ってみれば辰雄とは真逆ですね。染谷くんにはすごく安心感を感じますし、それだけ力がある方だと思います」。

黒沢監督も「そのとおりです。でも、それはメインの3人ともそうでした。それぞれが決して簡単な役ではなかったと思うけど、限られたスケジュールの中で最大限の力を出してくださった」と、夏帆、染谷、東出の演技力を称える。

「特に夏帆さんが演じた悦子は、始まってから終わるまでキャラクターは同じですが、ポジションが激しく変わっていく。どちらかというと最初は控えめで、人にすがるようなタイプかと思っていたけど、だんだんいろんなものを押し付けられ、全世界の責任を負うような立場になっていく。その変化を多分ご自分で計算されて演じられていったのでは? 1カットの中でも常に変化していくのがわかりました」。

夏帆は「いえいえ。計算はしてないと思います」と恐縮する。

侵略者役で強烈なインパクトを放つ東出昌大と夏帆は今回初共演となった。「私は対峙する役どころだったので、目が合っただけで不穏な気持ちになり、心がざわつきました。ああいう目ができる役者さんはそういないんじゃないかなと。本当に素晴らしかったです」。

『クリーピー 偽りの隣人』(16)に続いて黒沢組に参加した東出。黒沢監督は真壁役について東出に「ずばりひと言で言うと“悪魔”です。 人が戸惑ったり不幸になったりするのが何よりも好きという感じです」と説明し、東出はそのリクエストに見事に応えたようだ。

夏帆は「今回は撮影以外で東出さんとお話をすることがなかったのですが、すごく真面目で、どこかつかみどころがない方というか、何を考えていらっしゃるのかわからない方だと思いました」と撮影時を振り返る。

黒沢監督はうなずき「普段は全くノーマルな方ですが、たぶん撮影中はその役に成り切るというか、休憩時間も悪魔のままでいらっしゃったんだと思います。俳優さんはカットがかかるとすぐに切り替えるタイプと、ずっとそのままの役でいらっしゃる方と2通りのタイプがいます。特に今回の東出くんは特殊な役だったから、きっとお弁当を食べる時なども悪魔のまま食べていらっしゃったのかと。話しかけづらいですよね」と笑うと、夏帆も「話しかけられなかったです」と納得していた。

常に撮影が終わるのが早かったという黒沢組だが、黒沢監督に言わせると「普通だと思います」とのこと。「過剰な労働をなるべく避けているだけで。予断ですが、クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』(06)に出演された伊原剛志さんが言っていましたが、黒沢監督の現場は相当早いけど、イーストウッド監督の現場はその倍早かった」。夏帆は「それって相当早いですよね?」と驚嘆していた。

また、夏帆は待望の黒沢組に参加できたことについて「すごく緊張しましたし、今でもしています」と頬を紅潮させる。「自分は役者としてまだまだだから、まさか黒沢さんの作品に出られるなんて思ってもいなかったので。本当にこの仕事をしてきて良かったなと思いました。なんていうか、撮影現場はすごく神聖な場所という感じがしました」。

黒沢監督も「僕もラッキーでしたよ。夏帆さんに出ていただけて」と心から初タッグを喜んでいる様子。『散歩する侵略者』はもちろん、同作品の世界観を違う角度から描いた『予兆 散歩する侵略者 劇場版』も是非チェックしていただきたい。【取材・文/山崎伸子】

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