『KUBO』のアニメーション・スーパーバイザーを直撃「パペットは家族だ」
『コララインとボタンの魔女』(09)のスタジオライカによるストップモーションアニメ『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(11月18日公開)で、アニメーション・スーパーバイザーを務めたブラッド・シフが来日。1秒間の映像を作るために24コマを必要とし、1週間の作業でたった3.31秒しか撮れないというストップモーションアニメの現場はどういうものなのか? ブラッド・シフがその舞台裏を明かした。
本作の主人公は、三味線の音色で折り紙に命を与えられるという不思議な力を持つ少年・クボ。彼は闇の魔力を持つ祖父に命を狙われ、母と共に逃げ延びるが、さらなる追手に母まで殺されてしまう。その後、母が命を吹き込んだサルや記憶を失ったクワガタの侍と共に、敵討ちをするための三種の神器を探していく。
ストップモーションアニメの良さは、実際に本物のパペットやセットを使って撮っていく面白さにあると言うブラッド・シフ。「プログラムで表現するものとは風合いが全く違う。1つ1つに味があり、どこかちょっと不完全なところにも魅力がある。光も実際に照明を当てているからこそ、反射した時の輝きが違う。たとえば、灯籠流しのシーンの灯籠は1つ1つLEDで灯したものだ。LEDだからこそ、素材が熱を帯びずに撮ることができたよ」。
本作では、お盆の灯篭流しをはじめ、日本の伝統や文化がとても美しく表現されている。日本に造詣が深いトラヴィス・ナイト監督の指揮下で、ブラッド・シフたちアニメーターたちは、日本をリスペクトしながらディテールを作り上げていった。
「初めて脚本を読んだ時は、正直、お盆についてよく理解できなかった。でもその後、いろんなリサーチをしていく中で、お盆が死者を迎えてまた送り出すという風習だと知ったんだ。それは自分たちの文化にはないものだけど、とても尊いことだと感じて、すごく心を揺さぶられたよ。だからこそ、きちんと描こうと思ったんだ」。
今回は、実際に撮影で使ったKUBOのパペットを持参しての来日となった。手に取って見せてもらうと、顔のパーツを交換できたり、瞳を閉じる割合が自由に調節できたりと便利な作りになっていて、衣装の質感も実にリアル。中でも着物の袖の表現には本当に苦労したと言う。
「通常、ストップモーションアニメでのキャラクターの衣装は、コントロールしやすいようにジャストフィットなものが多い。でも、今回は日本が舞台で、着物を作ることになった時、袖の動きをどう表現したらよいか?ということに一番頭を悩ませた。袖にはワイヤーが入っていて、袖だけを動かすテストを何度もやったんだ」。
試行錯誤の末、何とか動きはマスターできたそうだが、実は手を動かさずに下ろした時の袖を自然に見せるのが本当に難しかったとか。「アニメーターが30人くらいいて、全員が同じ動きでできるかというと、それぞれスキルが違うから上手くいかなくて。最終的には誰もが同じように動かせるような形に設計し直したんだ。それが決定したのは撮影の1週間前だったので、本当に焦ったよ」。
聞けば聞くほどストップモーションアニメ作りの奥深さに舌を巻くばかりだ。「ものすごい集中力が必要で、非常に根気もいる作業だし、毎日逃げ出したくなるよ」と笑うブラッド・シフ。
「でも、スタジオライカには世界のトップアニメーターが集結していて、その日に撮った映像をみんなで見ると『すごい!』と鳥肌が立つようなカットが撮れることがあるんだ。その感動が僕たちクリエイターのモチベーションを上げるし、健康的なライバル心に火をつける。基本的にとことん追求する仕事だからストレスも多いけど、やっぱり楽しいから続けているんだと思う」。
そう言いながら、KUBOのパペットに優しい視線を落とすブラッド・シフ。「ずっと彼らといると、家族のような存在になっていくよ。僕は長い間アニメーションの仕事をしているけど、長編映画ほど報いが大きいものはない。キャラクターをじっくり見せていけるからね。パペットにはすごく親近感や仲間意識を感じるし、彼らが自分の思った通りに動いてくれた時は大好きだと思えるけど、全然思った通りに動いてくれない日は怒りがこみ上げてきたりもする。まさに家族と一緒だね」。
最後に日本のファンに向けてメッセージをいただいた。「制作している過程で、本作は我々から日本に対するラブレターなんだという思いがどんどん強まっていったんだ。その思いが観客にも伝わればうれしいよ」。
取材・文/山崎伸子