ソダーバーグ監督が映画界に復帰!新会社設立と映画作りへの情熱を語る
『オーシャンズ11』シリーズのスティーヴン・ソダーバーグ監督が映画界にカムバック!4年ぶりの映画となった『ローガン・ラッキー』(11月18日公開)は、4度目のタッグとなるチャニング・テイタム、『スター・ウォーズ』のアダム・ドライバー、『007』のダニエル・クレイグという最強の面子による痛快クライム・エンタテインメントとなった。本作で来日したソダーバーグ監督に、復帰理由や本作に込めた思いを聞いた。
4年前に映画界からの引退を口にしたソダーバーグ監督を映画界へ呼び戻したのは、無名の新人脚本家レベッカ・ブラントの脚本だった。「最初に知人から彼女の脚本を渡され『どなたか監督を紹介してほしい』と依頼されたので、自分で撮ると切り出すことがすごく恥ずかしかったよ(苦笑)。ただ、脚本を読んでみて誰にも渡したくないと思ったし、自分で作りたい作品であると同時に、作らなければいけない作品だとも感じたんだ」。
本作の主人公は足が不自由で失業中の炭鉱夫ジミー・ローガン(チャニング・テイタム)。元軍人の弟クライド(アダム・ドライバー)も戦争で片腕を失っていて、「ローガン家はついてない」と町中で噂されている。ジミーはある時、大胆な大金強奪計画を思いつき、弟や妹、現在服役中の爆破のプロ、ジョー・バング(ダニエル・クレイグ)の力を借りて、一発逆転の大勝負に出る。
個性派メンバーがチームを組んで大金を略奪するという設定は『オーシャンズ11』シリーズを彷彿とさせる。でも、今回は舞台がウエストバージニア州の田舎で、その道のプロ、ジョー・バング以外のメンバーはズブの素人という点が面白い。ソダーバーグ監督は追い詰められた人間を温かい視線で描いていく。
「自分の作品はすべて、運命をコントロールすることがテーマになっているように思う。僕がすごく面白いと思うのは、登場人物たちが自分の運命を思ったように変えていく、もしくは変えようとする物語だ。今回のローガン家も、何世代にもわたって悪運に見舞われていて、街の人々は『ローガン家の呪い』なんて言葉を口走っている。でも、それは人々が勝手に作りあげた話で、ジミーはそうじゃないと信じているからこそ、今回の計画を実行するんだ。つまり運命は自分の意思で変えられると思ったら勝負に出るということだ」
「実際にジミーは、人々が押し付けてくる意見に耳を貸さず、決して負けない。そういう世間の重みに負けないようにするという判断自体がすごくいいね。それは僕たちものを作る人間にも言えることだが、たとえ自分が手掛けた作品が人に好かれなくても、別に自分が作ったものが悪いというわけではない。特に映画ビジネスにおいては本当にそうで、人がどう思うのかなんて全く気にしなくていいと思っている」。
前回『コンテイジョン』(11)で来日した際にインタビューした時、ソダーバーグ監督はメジャースタジオのコントロール下で監督することにストレスを抱えていたようだった。最終的な編集権は監督が持つべきだと主張した彼は「もしも完成した映画を誰かがいじった場合、『家を燃やすぞ!』と脅すかもしれない」とまで言い放った。今回は、自身の新会社「フィンガープリント・リリーシング」を立ち上げ、新たに独立系映画製作のニューモデルを提案した。
「新会社を立ち上げたから、映画のマーケティングをどう行うのか、どんな作品を作るのか、資金はいつどんな形で使われるのかを自分で確認することができるんだ。さまざまな収益が製作に関わった方々にどう配分されていくのかを自分の目で見てコントロールできる。そもそも僕が映画界から身を引いた原因は、そこが不透明だったからだ。だから今はとてもハッピーだよ」。
元々、映画を心から愛しているソダーバーグ監督にとって、現場を離れることは「苦渋の決断だった」と言う。「当時はそれしか選択肢がないと感じていた。でも、今は映画製作のスタイルも変わり、他人の映画ビジネスのコンセプトに合わなくても自分で映画を作れるし、その環境は実に快適だ。実際、本作を作った後にさまざまな監督から『やり方を教えてほしい』と何本も電話をもらったよ。おそらく今後は僕だけじゃなく、他の監督もこういったアプローチをとる人が増えるんじゃないかな」。
ソダーバーグ監督の充実した表情を見て何だか安堵した。そして、映画ファンにとっても待望の最新作『ローガン・ラッキー』は、期待を裏切らないソダーバーグ節全開の快作となっている。
取材・文/山崎伸子