「陸王」にも駅伝にも負けない興奮と歓喜を!“走る”映画3選
究極のランニングシューズの開発に情熱を燃やす人々の人間模様を描き上げたTBS日曜劇場「陸王」が、多くの視聴者の心を揺さぶり、“走る”ことの素晴らしさや奥深さが改めて注目されている昨今。もともと映像作品、とりわけ映画においては“走る”というアクションを印象深く表現した秀作が数多く存在する。新春恒例のニューイヤー駅伝、箱根駅伝も開催されるこの時節に、観る者の気持ちを熱く高ぶらせる“走る映画”3本を紹介したい。
格調高き人間ドラマの傑作『炎のランナー』
まずアカデミー賞4部門に輝いたスポーツ映画の名作『炎のランナー』(81)は、1924年のパリ・オリンピックに出場した2人のイギリス人青年、ハロルド・エイブラハムズとエリック・リデルの実話の映画化だ。
ヴァンゲリスのエモーショナルな音楽に乗せて、陸上選手の一団が浜辺でランニングする姿を捉えたオープニングとエンディングのイメージは、あまりにも有名。そのほかにもダイナミックなカメラワークやスローモーションを駆使した競技シーンが随所にちりばめられ、第一次世界大戦後のイギリスの時代背景や信仰などの多様なテーマを取り入れた格調高い人間ドラマを盛り上げている。
『ラン・ローラ・ラン』
日本でもスマッシュ・ヒットを飛ばしたドイツ映画『ラン・ローラ・ラン』(98)は、ラブ・ストーリーでありながら全編の大半が“走る”シーンで占められた異色の快作。ある日突然、裏社会の仕事に関わった恋人からのSOSコールを受けた女の子ローラが、絶体絶命の彼を救うために、20分以内に10万マルクの大金を調達するという超困難なミッションに挑戦する。
タンクトップを身にまとい、ベルリンの街を猛然と駆ける赤毛のヒロインを、主演女優フランカ・ポテンテがバイタリティーあふれる走りっぷりで熱演。迫りくるタイムリミットのスリルに加え、ミッションに失敗したらスタート地点にリセットされる設定が実にユニークで、抜群の疾走感とともにひねりの利いたプロットを満喫できる。
『グロリア』
そして登場人物が“走る”シーンは、アクション映画やサスペンス映画の手に汗握るチェイス・シーンの定番でもある。なかでも巨匠ジョン・カサヴェテスが放った犯罪活劇『グロリア』(80)は、一度観たら忘れられない鮮烈さ。マフィアに命を狙われる少年を偶然かくまうはめになった中年女性グロリアが、大都会ニューヨークの路上や地下鉄構内をハイヒールで逃げて逃げまくる。
監督の愛妻でもあるジーナ・ローランズが拳銃を片手に体現したタフで味わい深いヒロイン像は、すでに映画史上における伝説。その勇ましい“足音”とともに、ハードボイルドな格好良さが観る者の脳裏に焼きつくはずだ。
果たして幾多の障害を乗り越えてゴールへと迫る主人公たちは、最後にいかなるカタルシスを呼び起こしてくれるのか。その興奮と歓喜の瞬間にも“走る映画”の醍醐味が凝縮されている。
文/下川秋男