初共演した玉木宏と新木優子が『自然なまま感情があふれ出た』と語る名シーンとは?
芥川賞作家・中村文則の同名ミステリー小説を、玉木宏と新木優子を迎えて映画化した『悪と仮面のルール』( 公開中)。玉木が扮する主人公は、絶対的な悪=“邪”になるために創られたダークヒーローだが、新木演じる美しきヒロインを守ることにしか自らの存在価値を見出せないという設定が、本作を純度の高いラブストーリーに昇華させている。
財閥・久喜家に生まれた文宏(玉木宏)は、この世に災いをもたらす“邪”になるという宿命を背負っている。ある日、父(村井國夫)から「お前は悪に呑み込まれなければいけない」と告げられた文宏は、共に育った初恋の少女・香織に危害が及ぶと知り、父を殺して失踪する。十数年後、文宏は顔を整形し、“新谷弘一”として香織に近づいていく。
玉木は原作を読み終え、初めて『悪と仮面のルール』というタイトルが腑に落ちたと言う。「難しく考えたらいかようにもなる話だけど、なにを伝えたいかということに焦点を合わせると、これは2人の恋愛物語だと思いました。文宏の原動力となっているのは、香織に対する純真な気持ちなんです」。
新木も原作から同じような印象を受けたと話す。「最初はミステリーなのかと思いきや、読み終わるとすごく純粋なラブストーリーだと感じる、意外な作品でした。相手を好きだからこそ犯してしまう罪や、人間の欲望が描かれているなと思いました」。
玉木は整形した直後のシーンを演じるにあたり、顔に50本ほどの鍼を刺して臨んだ。「僕は整形の経験がないし、他人の顔をまるまる手に入れるということも想像しにくかったので、そういう違和感を出したいと思いました。知り合いの鍼の先生に相談し、安全な範囲の下、包帯を巻く直前に、鍼を打ってもらいました。実際に顔がすごくこわばった感じがしたので、ある意味成功したかな」。
メガホンをとったのは、ミュージックビデオを多数手掛けている中村哲平監督。玉木は事前の準備をストイックにする一方で、現場で生まれるものも大切にしたいと思ったという。「役は現場に行ってからできあがるものだから、撮影中も中村監督にいろいろなアイデアを提案しました。監督もそれを受け入れてくださったので、自分としても良い責任感をもって臨めたと思います」。
新木は、これまでにないシリアスな役どころに挑戦した。「中村監督と、香織の心情についてすり合わせをさせていただいた時、意見が合うことが多かったので、私自身も迷いなく香織としていられたような気がします」。
文宏が自身の素性を隠したままで香織と接する印象的なシーンは、長回しで撮影した。2人は車の中でミラー越しに話をしていく。玉木は「僕は普段から、ト書きは気にせず演じているので、自然なまま感情が溢れ出た感じでした。あの感情は計算しているようでしていない、自分にとって気持ちのいい流れだったと思います」と同シーンを振り返る。
新木も同シーンについて「ここでこうしようとか、あまり決め込まずに現場に入ったのがよかったのかもしれないです。もちろん、台本を読んで想像はしていたのですが、実際の撮影では全然違いました。思いがけない感情の沸点があったので、すごくおもしろかったです」と振り返る。
初共演となった2人だが、それぞれに刺激を受け合ったようだ。新木は玉木の座長ぶりについて「すごく勉強になりました」と賛辞する。
「私が今後、座長になるような機会があったら、玉木さんのようにみなさんと自然体で接したいです。共演者の方と壁を作らず、構えていないところがとても素敵でしたし、だからこそ作品も良くなっていくんだなと感じました。私も玉木さんのように、いつも穏やかな人でいたいです」。
玉木は、新木を「ちゃんと周りを見られる人」だと感心する。「どうしても自分の若いころと比べてしまい、新木さんはなんでこんなにしっかりしているんだろうと思ってしまいました。この世界では、いろいろな年代の人といっしょに仕事をするので、みんなが同じラインに立ち、分け隔てなく仕事ができる環境にいられます。年上の方だけではなく、若い人たちからもパワーをもらい演じられることは本当に幸せです」。
取材・文/山崎 伸子