ヒュー・グラント「撮影中は心配事ばかり」“ラブコメ帝王”のナイーブな素顔

インタビュー

ヒュー・グラント「撮影中は心配事ばかり」“ラブコメ帝王”のナイーブな素顔

『ノッティングヒルの恋人』(99)や『ラブ・アクチュアリー』(03)などロマンチックなラブストーリーで、世界中の女性たちを虜にしてきた英国俳優ヒュー・グラント。キュートなモフモフクマを主人公とした『パディントン2』(公開中)では、“落ちぶれたナルシストの俳優”というこれまでのイメージを覆すような役柄を軽やかに演じている。劇中では見事な弾けっぷりを見せる彼だが、「撮影中は心配事ばかり。役者業を全然楽しめないんだ」とナイーブな胸の内を告白する。

前作でロンドンにやってきたクマのパディントン。『パディントン2』では、すっかりロンドンっ子となったパディントンが、大好きなルーシーおばさんの誕生日プレゼントを探すために大奮闘する姿が描きだされる。

ヒューが演じるのは、パディントンが見つけた絵本に隠された秘密を知り、それを狙ってパディントンを窮地に追い込む俳優・ブキャナン役。つまりパディントンの敵役だ。ポール・キング監督からは「キャリアの終わったナルシストの俳優という役を、君をイメージして書いたんだ」と驚きのオファーを受けたそう。ヒューは「ちょっと傷ついたよ」と茶目っ気たっぷりに振り返る。

「でもすごくおもしろくなるポテンシャルを持った、魅力的な役柄だと思った。僕が演じることで、さらにおもしろくなるんじゃないかとも思ったんだ」と自分自身のこれまでのイメージやキャリアが最高のエッセンスとなる予感を感じたという。「僕は作品選びをするときには、まず僕が演じられる役なのかどうかを考える。観客が楽しめる役として演じることができるかどうかが、なによりも大事なんだ」。

ブキャナンはうぬぼれが強く、過去の栄光を忘れられない役者だ。ヒューは「僕は駆け出しのころ、舞台によく出演していたんだ。そこで出会った年配の役者たちのなかにはブキャナンのような人もいた。大げさでわざとらしいタイプの役者だね(笑)。役作りでは、その人たちからインスピレーションを得ているよ」とニッコリ。ハゲヅラや女装など二枚目のイメージを覆すような姿も披露しているが、「そういったことにまったく抵抗はなかった。ハゲヅラは自分から提案したことなんだよ」と前のめりで新境地に挑んだ。

ブキャナンとしての弾けっぷりを見ると、演じることをさぞや楽しんだのでは?と感じるが、ヒューは「楽しんで演じたいとは思っているけれど、実はまったく真逆なんだ」と激白。『ラブソングができるまで』(07)の撮影以降、パニック障害と闘っていることも公表しており、「演技をしているとき、僕はものすごく神経質でナーバスになってしまうんだ。とにかくいろいろなことが心配になってしまう。だから撮影中は役者業を全然楽しめないんだ」と明かす。

では彼を役者業へと向かわせる原動力とは一体なんなのだろうか。ヒューは「観客の声」を力にしているという。「ひとえに映画が完成したときの喜びがあるからだ。その喜びがあるからこそ、いまこうしてここにいられる。観客が映画を楽しんでくれたと感じられたときが、僕にとって一番楽しいときだよ」。

「役者というのは、幸せな人種ではないと思う。すばらしい俳優であればあるほど、他人を演じることには長けているのに、自分が誰かを見失っている人が多い気がするんだ」と苦しみとともに、俳優道を歩み続けているヒュー。『モーリス』(87)で世界的に知られるようになってから、常に第一線を走り続けている印象があるが、「役者として転機となった作品といえば、『フォー・ウェディング』のようなヒットをした作品になるのかもしれない。でも僕自身は人気を維持し続けているとは思わないよ。それって天気や波みたいなものだと思うんだ。ウェイブが来たり、引いたりとね。僕は天気がどうであれ、気にしないようにしているよ」と冷静に語る。

そんな彼にとって、コメディ要素たっぷりの『パディントン2』への参加はとてもうれしいことなのだとか。「役者を始めたころは、友だちとコメディグループのようなものを組んで、おもしろくてくだらないことをたくさんやっていたんだ。それにパディントンって嘘がなくて誠実な存在だよね。そして役者はその逆のような存在(笑)。僕にとって本作は、キャリアの始めのころや『パディントン』を読んだ子ども時代に立ち戻れるような作品なんだ」。

取材・文/成田 おり枝

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