『猟奇的な彼女』のクァク・ジェヨン監督が語る、“ラブストーリー”の極意とは?
大ヒット作『猟奇的な彼女』(01)『僕の彼女を紹介します』(04)で知られるクァク・ジェヨン監督が、綾瀬はるか主演作『僕の彼女はサイボーグ』(08)以来、日本を舞台に撮り上げた『風の色』(1月26日公開)を引っさげて来日。2000年代前半のアジア映画界に純愛映画ブームをもたらした立役者でもある監督に“ラブストーリー”の極意を伺った。
本作は、突然目の前から消えた恋人・ゆりの死に失意しマジシャンになることを決めた青年・涼が、生前ゆりが残した言葉をたよりに北海道に訪れ、彼女と瓜二つの女性・亜矢と出会うことから始まるミステリアスなラブストーリー。監督自身が「自分史上最高のラブストーリー」と推す自信作だ。
ふたつの愛の物語が交錯する構成について「自分自身は誰なのかという“アイデンティティ”を表現したかった。そして、その中でも愛を描きたかった」と語る監督は、ラブストーリーの名手らしく劇中に様々な“愛”の表現を織り交ぜていく。
たとえば、これまでの彼の作品では常に“時間”の流れというのが大きなキーワードとなっており、本作でも2年の時を経た物語が展開していく。それについて「時間が過ぎても変わらない愛を見せたかった」と心の内を明かした監督は「現実では2年経てば変わるかもしれないけれど、映画の中では変わらないんだ」と映画ならではの“愛”の在り方に挑んだことを明かした。
さらに、感情表現のひとつとして使われることが多い“雨”も彼の作品のキーワードのひとつ。本作では、回想シーンとして大雨の中で傘も差さずに塀の上を歩くヒロインを主人公が写真に収めるという鮮烈な場面が登場する。
監督はにこやかな表情で、自身の作品における“雨”の意味を「愛のメッセージ」だと表現。「元々は雨を入れて撮ろうとは思っていなかったけれど、自然の流れでそうなったんだ。でも雨が降っていたからこそ画面に面白みが生まれ、微妙な感情も美しく撮れたんだと思っている」と明かした。
そんな彼は、メロドラマの新鋭として韓国国内で注目を浴びた90年代前半から8年のブランクを経て発表した『猟奇的な彼女』の大ヒットで、たちまちアジア全土を股にかけたラブストーリーの旗手へと成長した。そして前作『時間離脱者』(16)と本作では、ミステリーとラブストーリーを見事に融合させている。
一貫してラブストーリーにこだわる理由について「他のジャンルも撮ってみたけれど、自分に合うのはやはりラブストーリーなんだ」と微笑んでみせると「それに何より、ラブストーリーを撮るのが好きなんだ」と“愛”を描くことに対する自身の愛情を窺わせるコメントも。さらに「最近はラブストーリーが少なくなっているし、同じようなものばかり。だから違う意味を与えるためにミステリーの中に“愛”を入れてみたんだ」と語った。
そしてズバリ、ラブストーリーを「生きる目的であり、映画を撮る目的」だと断言した監督。彼が今後、アジアのみならず世界のラブストーリーを牽引する存在になっていくことに大いに注目したい。
取材・文/久保田和馬