「“死”からカメラを背けたくない」白石晃士監督が明かす『不能犯』に込めた美学とは?

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「“死”からカメラを背けたくない」白石晃士監督が明かす『不能犯』に込めた美学とは?

松坂桃李が思い込みや、マインドコントロールで人を死に追いやるダークヒーローを演じた話題作『不能犯』(2月1日(木)公開)。「グランドジャンプ」で連載中の人気コミックを実写化した本作は、次々と起こる変死事件を追う刑事と、立証不可能な犯罪<不能犯>を引き起こす謎多き男との攻防を描いたスリラー・エンターテインメントだ。

メガホンをとったのは、これまで『ノロイ』(05)や『オカルト』(09)などPOVホラーのパイオニアとして注目を集めてきた白石晃士監督。「いままでやったことがないタイプの作品だったので魅力を感じた」と新境地の開拓に目を輝かせた白石監督は、「主人公の具体的な背景が示されない原作だからこそ、映画ならではの要素が見出せるのではないかと思ったんです」と原作との出会いを明かした。

劇中で松坂が演じる宇相吹正というキャラクターは、徹頭徹尾ミステリアスな存在として映しだされる。「漫画だともっと人間的な部分が描写されているけど、そういった部分を排除して『人間ではないのでは?』とすら思わせるように描きたかった」と明かした白石監督は、松坂を配役した理由について「実力のある役者さんなので、仕事をしてみたかったんです」と笑顔で答えた。

そして「初めはもっと邪悪なイメージだったから、松坂くんが演じたら優しい雰囲気に寄りすぎてしまうのではと懸念も頭をよぎりました」と明かすも「結果的に彼の滲み出る誠実さが、宇相吹というキャラクターに奥行きを与えてくれて、良いバランスができあがった」と、近年様々な映画で新たな一面を見せている松坂に賛辞を惜しまない。

宇相吹に殺人を依頼すると、ターゲットはもちろん依頼者にも不幸な出来事が訪れる。それを決めるのは、依頼者の殺意に“濁り”があるかどうかだ。「“濁りのない殺意”というのは、損得勘定を抜きにしたもの」だと白石監督は語る。「まるで衝動買いのように、自分が困ることも振り返らず殺したいと思ったら殺す、そういったものだと思う」。

さらに白石監督は「心の行き違いや思い込み、欲望が強すぎたりしてしまう人間の面白さや悲しさ。そういったものが宇相吹の決め台詞である『愚かだねえ、人間は――』に集約されている。何かを批判していたり肯定したりするわけではなく、良い意味でも悪い意味でも人間の“愚か”さを描きました」と、本作に込められたテーマを明かした。

また、劇中では多くの登場人物の“死”が描き出されていく。そういった描写について「なるべく人の“死”からカメラを背けたくない」と独自の美学を語り、「“死”の瞬間に別のショットになったりするのは、作り手が逃げているのと同じ。劇中で人を殺すのであれば、きちんとそれを見つめなきゃいけない」と、“死”という描写に対する強いこだわりをみせた。

心霊ドキュメンタリーなどのPOVホラーから一転して、より表現の幅を拡げ、初めてのスリラーにチャレンジした白石監督。本作の続編を作るなら「東京から離れたところを舞台に、まったく違う人間模様でやったらおもしろいかな」と想像を膨らませながらも「オカルト要素の一切ない“キラキラ映画”もやってみたい」と心の内を明かした。

取材・文/久保田和馬

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