『ぼくの名前はズッキーニ』監督が明かす、ストップモーションアニメの魅力とキャラクターへの想いとは?

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『ぼくの名前はズッキーニ』監督が明かす、ストップモーションアニメの魅力とキャラクターへの想いとは?

第89回アカデミー賞で長編アニメーション部門にノミネートされた『ぼくの名前はズッキーニ』(公開中)のクロード・バラス監督が来日。制作に長い時間と多くのアイデアを必要とするストップモーションアニメの魅力と、彼自身も虜になったというこの物語の魅力について語ってくれた。

「自分が小さい頃に『アルプスの少女ハイジ』を観て味わった感情が蘇ってきたんだ。それを今の子供たちにも感じてほしいと思った」と、ジル・パリスの書いた原作との出会いを振り返ったバラスは、わずか66分という短い上映時間の中で、母親を亡くした幼い少年ズッキーニが、孤児院の仲間たちと味わう出会いと別れを感情豊かに表現した。

制作に携わるスタッフのモチベーション維持と、キャラクターたちが持つ繊細な感情を表現することにこだわったバラスは「登場人物の多い原作の物語を、ズッキーニを中心にしたまま削ぎ落としていき、余白を残すようにしたんだ」と明かす。そして「そのおかげで、伝わる感情が強くなったと思っている」と、満面の笑みを浮かべた。

スイスで生まれたバラスは、フランスでイラストを学び、97年から短編映画の制作をスタートした。そして本作で初めて長編作品に挑んだのである。様々なジャンルの実写映画から影響を受けたと語る彼が、ストップモーションアニメを作るきっかけになったのは、3Dデザインの仕事で訪れた制作現場が、実写映画の撮影現場に近いものだったことだと振り返る。「それぞれ専門の技術者たちが、綿密な準備と技術を持ち寄って、緻密で後戻りできない作業をしていく。エネルギーが凝縮していることに魅力を感じたんだ」。

そんな彼は、作品の中でも従来のストップモーションアニメに見られるようなファンタジー性のある描写ではなく、より現実的なヒューマンドラマを描くことに注力している。「弱さを抱えながら、いろんな問題に立ち向かっていく登場人物が、社会に対して向ける眼差しを描く作品が好きだ」と、彼が影響を受けた監督として挙げたケン・ローチ監督やジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督と同じようなテーマの作品を目指していることを窺わせた。

本作の劇中では、ズッキーニをはじめ、様々なバックグラウンドを抱えた子供たちが、その辛い過去と向き合いながら成長して行く様が描かれていく。母親が事故で死んでしまったことを最初は受け入れられないズッキーニが、孤児院で仲良くなったシモンに、こう告げる場面が心に突き刺さる。「僕はママを殺してしまった」。

「子供が自分の母親の死を誰かに喋るということは、死を受け入れるための重要なプロセスなんだ」とバラスは語る。「自分が残されたという状況を受け入れていきながら、いろんな人と出会うことを積み重ね、徐々に死を受け入れて行くことになるんだと思う」と、物語のさらに奥にある、主人公の心の中へと想いを巡らせた。

さらに、ほかの子供たちについても「成長していく中で、出会いと別れを繰り返して、彼らの人生は続いていくだろう」と語り「彼らを通して、人生の中で何回も経験する大きな別れと、そこからの新しいスタートの意味を伝えたい」と、本作が持つ深いテーマ性を明らかにした。

取材・文/久保田和馬

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