相性も最悪な兄弟と姉妹!?窪田正孝、新井浩文、江上敬子、筧美和子が本音を語る
『純喫茶磯辺』(08)、『さんかく』(10)などのオフビートな人間ドラマから、古谷実の同名コミックを映画化した衝撃作『ヒメアノ~ル』(16)まで、人間関係のいびつさや可笑しみを時に温かく、時にすさまじい切れ味で描いてきた吉田恵輔監督。最新作『犬猿』(2月10日公開)は、“犬猿”関係にある兄弟・姉妹の4人が織り成す愛憎劇だ。メインキャストを務めた窪田正孝、新井浩文、江上敬子(ニッチェ)、筧美和子に吉田組の撮影裏話を聞いた。
4人が演じたのは、まったくタイプが違い、相性も最悪な兄弟と姉妹の2組。真面目な弟・和成を窪田正孝、乱暴者でトラブルメーカーの兄・卓司を新井浩文が演じ、見た目は冴えないが賢く勤勉な姉・由利亜を江上敬子、要領は悪いが美人の妹・真子を筧美和子が演じた。
まさにはまり役な4人は、各々の個性が影響し合い、絶妙な化学反応が生まれている。まずは、兄弟、姉妹を演じた感想を聞いてみた。
新井「オファーをいただいた時点で窪田くんと兄弟に見えるかどうかが心配でした。ちゃんとそう見えたのなら問題ないです。演じた役との共通点は特になかったですね。うちは暴力をふるわないし、タトゥーも入れてないし。うちはそういう役が多いですが」。
窪田「新井さんはなにをやっても返してくださる感じでした。お互い、役や仕事に対してのフラットな考え方は共通しているのかなと。演じた和成との共通点については、すぐ一杯一杯になっちゃうところが自分と似ているかもしれない。うちもそんなにキャパは広くないので」。
江上「最初にキャスティングいただいた時、正直イジられてるなと思いました。筧ちゃんと私が姉妹なわけがないだろうと(苦笑)。監督は私に当てて役を書いてくださったそうですが、本当に死ぬほど共感する部分があったので、演じるというよりはそのままやったらこうなったという感じです」。
筧「江上さんが私に対してガンガン来てくださったので、馴染むのが早く、本当に姉のような安心感を持って接しられました。真子役については、勉強ができないとか、器用じゃないとか、ふらふらしているとか、まさに自分と重なるところがたくさんありました」。
兄弟、姉妹がそれぞれ感情をぶつけ合い、取っ組み合いのケンカをするシーンは本作のハイライトでもある。
新井「窪田くんとうちはたぶん場数を踏んでいるから、ケガをしないようにと、前もって動きを確認しました」。
江上「え!我々はすぐやっちゃいましたよ」。
筧「ケガをしてもいいくらいの気持ちでやってましたよね?」。
新井「それ、できない俳優のすることだね(笑)。アクションができない俳優はすぐ『できます』と言ってすぐやっちゃう。でも、できる俳優は動きをチェックしてからやるんです。『ケガをしてもいい』はダメ。気持ちはそれでいいけど、実際にケガをしたら撮影が止まるから、自分の身は自分で守らないと」。
窪田「お互いにそうでした。僕たちは確認し合いましたね」。
江上「吉田監督から『ケンカをしてくれ』と言われたからするしかないなと。自分の中でのビジョンとかはなにもなかったです。『筧ちゃんがすごく髪を引っ張るなあ!』と思っていました(苦笑)」。
筧「どうやるかって決めてなかったでしたっけ? 確かにけっこうフリーな感じで始まりましたよね」。
江上「うちらでどうする?どうする?と。やるしかないと思ってやりました」。
新井「通常はいろいろと段取りを決めてからやるんだよ」。
江上「なるほど。勉強になります」。
窪田「確か江上さんたちのシーンを先に撮ったんです。吉田監督から『女性ならではの取っ組み合いがおもしろかった』と言われていました。男性と女性とではケンカの仕方が違うから。監督はケラケラ笑っていましたよ」。
江上「私が筧ちゃんに『お前、身体だけだろ。中身なんて誰も見てねえんだよ。外見だけだ』みたいなことを言うんです。髪を引っ張るのも女しかやらないかも」。
筧「でも、無意識に『ケガをしないように』という思いはあったのかもしれない」。
江上「いや、それは後づけだよね(笑)」。
筧「アハハ。確かにそうですね」。
江上「次から気をつけます。次があればですが」。
兄弟、姉妹とそれぞれが持つコンプレックスや嫉妬、憎しみ、葛藤などが、生々しくさらけ出されていく本作。切っても切れない家族だからこそ、いったん関係性がこじれると実にやっかいなのだ。しかし、とことん傷つけ合い、ウミを出し切った後に見せる表情は、どこか感慨深い。完成した本作について、4人に感想を聞いてみた。
江上「すごくイタくてイタくて…。私は自分が出ているので恥ずかしくて笑えなかったけど、自分がゲロを吐いたりしているシーンで、笑いが起きていたから良かったです。本当に泣けて笑えてイタい映画だなと思いました」。
筧「映画が完成してみて改めて思ったことは、吉田監督は計算尽くで私たちを上手に使ってくださったんだなということでした。すごく胸が痛むし、苦しくもなるんですが、すごく愛おしい作品になったと思いました」。
新井「台本の時点からすばらしい仕上がりだったので、想像どおりになった感じです。実際、台本にないシーンはあまりなかったというか、撮影にまったく無駄がなくて、台本以上の映画になったかなと。正直、自分で客観的に観るにはもう少し時間がかかると思いますが、たくさんの人に観てほしいです。でも、日本の現状ではどういう映画が当たるのかってさっぱりわからない。自分自身は観て損はない映画になったと思いますが、あとはみなさんの判断でお願いしますと」。
窪田「すごくエンタテインメントとして追求された映画になったと思います。近くで観ると悲劇でも、引いてみるとすごく喜劇だなと。僕は実際に兄弟がいるので、やっぱり重なる部分がありました。伝えたいことがちゃんと込められている映画になった気がします。あと新井さんがおっしゃったとおり、映画はお客さんのためのもので、観てくれる方がいないと完成しないと思っています。僕自身は『やっぱり日本映画っていいな』と思える作品にはなったのではないかと思います」。
取材・文/山崎 伸子