恋した相手を食べちゃう!?変化しつつある映画の中の“人魚”
映画における“人魚”といえば、ロン・ハワード監督の『スプラッシュ』(84)やディズニーの『リトル・マーメイド』(89)などでおなじみの上半身が人間、下半身が魚の不思議な生物。キュートな容姿で人々を魅了するのが定番だった。ところが、ポーランド発の怪作『ゆれる人魚』(公開中)をはじめ、最近その“人魚”描写に異変が起きている。
ポーランド発の人魚は、文字通りの“肉食系”!?
『ゆれる人魚』に登場する人魚は、美しい姉妹シルバーとゴールデンだ。舞台は1980年代のワルシャワ。海から上がった2人がナイトクラブでダンスと歌を披露するとたちまち大人気に。やがて姉のシルバーは人間の青年に恋をするが、妹ゴールデンは冷ややかな反応。それもそのはず。彼女たちにとって人間は“餌”であり、ゴールデンはこれぞ本当の肉食系とばかりに男にガブリと喰らいつき、口を赤く染める…。
人魚としての容貌も従来とは少し異なっている。下半身を足に変えて歩くこともできるが、普段は太く長々とした状態でウナギのようにグロテスク。しなやかに水中を泳ぎまわる印象とは大きくかけ離れていて、そのインパクトに度肝を抜かれるはずだ。
ダークな世界観の『ゆれる人魚』だが、物語はアンデルセンの童話をベースにしているほか、実は日本のアニメの影響も受けているとも。監督のアグニェシュカ・スモチンスカは、音楽を担当したヴロンスカ姉妹から宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』(08)のことを教わったそうで、よく映画を見てみると…細かな設定などに『ポニョ』的な要素が感じられるという。
進む人魚映画のリアル・ファンタジー化
海を汚す人間を相手に、人魚族の姫が大きく広げた尾ひれで戦うチャウ・シンチー監督の『人魚姫』(16)、新薬の副作用で人魚…というより魚人間になってしまった男の悲哀を描いた韓国映画『フィッシュマンの涙』(15)など、近年は一筋縄ではいかない“人魚”の物語が各国で作られている。そんな中、17年度のアカデミー賞で最多13部門のノミネートを受けたギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』(3月1日公開)でも、物語の鍵を握るのが人魚風のキャラクターである。
政府の極秘研究所で働く声を失くした女性と、アマゾンの奥地で神のように崇められていた生物との交流がファンタジックに描かれる。人魚というより魚人の物語だが、サリー・ホーキンス演じる声を失くした女性が、童話で人間の足を得る対価に声を奪われた人魚姫を想起させる設定が興味深い。
メルヘンでチャーミングな人魚の物語より、現代では、時にリアル、時にシニカル、そしてファンタジックなテーマをはらませて人魚映画は進化し続けていくのかも?
文/トライワークス
発売元:ツイン 4104円