大林宣彦監督の不屈の精神が結実!毎日映画コンクール表彰式に『花筐/HANAGATAMI』チームが集結
今年で72回を迎える毎日映画コンクールの表彰式が15日、“映像の町”として様々な取り組みを展開する川崎市にあるミューザ川崎シンフォニーホールで開催。昨年の日本映画を彩った俳優と監督、そしてこのコンクールの特色でもある技術スタッフらに歴史ある賞が授与された。
『あゝ、荒野』で男優主演賞を獲得した菅田将暉は、同作で映画賞を多数受賞。「まさかこんなに大きな賞をもらえるなんて思っていなかった」と本音を漏らした彼は、以前出演した『二重生活』(16)に続きタッグを組んだ岸善幸監督との出会いを「『ロミオとジュリエット』のような運命的なものを感じた」と明かす。
すると、続いて登壇した岸監督は「ジュリエットです」と茶目っ気たっぷりのコメントで会場を盛り上げた。そして菅田について「性的な意味も含めてとても魅力的な男。ぜひ出て欲しいと思った」と、5時間を超す長尺の意欲作に菅田の存在が欠かせなかったことを告白した。
一方、女優主演賞を受賞した『散歩する侵略者』の長澤まさみは一昨年の『海街diary』(15)で女優助演賞を受賞して以来の毎日映画コンクール受賞に「まだまだ自分がこの賞をもらえる器だと思っていないので、日々精進していきたい」と謙虚なコメント。また、この表彰式の会場で駆け出しの頃に出演した『なごり雪』(02)以来16年ぶりに大林宣彦監督と再会したという長澤は、大林監督から「演じるというのは自分自身どういう人柄かが映し出されるものだよ」と言葉をかけられたと明かし「自分の可能性を自分で否定することなく伸び伸びとやっていきたい」と抱負を述べた。
そして日本映画大賞を受賞した『花筐/HANAGATAMI』の大林監督は、今日は車椅子に座ったままでスピーチを行なった。これまで他の賞の授賞式で熱の入った長いスピーチを披露していた大林監督がトリを飾るということで、司会者をはじめ他の受賞者たちもできるだけ時間を確保しようと急ぎ足で表彰式を進めた中、大林監督は予想に反して短めに、映画と戦争の関係と“ハッピーエンド”について語った。
「映画というのは戦争の歴史。戦争を記録することが映画の役割だと思います」と切り出し、大戦での不幸を乗り越えながら新天地ハリウッドを夢見て映画を作り出した人々を例に挙げながら「“ハッピーエンド”とは、映画が発明した見事なフィロソフィ。現実はどこまでいっても戦争が終わらないアンハッピーなものです。だから未来は平和であると、嘘でもいいから心の中で信じてハッピーを描いた」と、映画が表現できる平和への強い願いをしっかりと解説。
そして「私のフィロソフィは、映画に出演した俳優たちが語ってくれる」と述べると『花筐/HANAGATAMI』に出演した窪塚俊介、常盤貴子、矢作穂香、そして同作で美術賞を受賞した竹内公一が登壇。常盤は「貴重な体験をさせてもらいました」とコメントし、窪塚は「映画を通して人間・歴史・精神すべてのことを学ばせてもらいました」と語るなど、それぞれが末期ガンを乗り越えて映画を完成させた大林監督を称えた。
他に男優助演賞を『三度目の殺人』の役所広司が、女優助演賞を『幼な子われらに生まれ』の田中麗奈が受賞し、それぞれ共演者との思い出や撮影時の裏話を明かした。他に監督賞を『バンコクナイツ』の富田克也監督が、新人賞を『島々清しゃ』の伊東蒼と『散歩する侵略者』の高杉真宙が受賞。田中絹代賞を東宝の喜劇映画や特撮映画で知られる水野久美が受賞した。
取材・文/久保田和馬