阿部寛、キラキラとした瞳でチェン・カイコー監督の現場は「贅沢で極上の時間」と絶賛!
『テルマエ・ロマエ』の古代ローマ人役、『祈りの幕が下りる時』など「新参者」シリーズでの人情味あふれる刑事・加賀恭一郎役など幅広い役柄を自在に演じわけ、年齢を重ねるごとに魅力を増している俳優・阿部寛。チェン・カイコー監督が夢枕獏の小説を映画化した『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』(2月24日公開)では、物語の鍵を握る人物・阿倍仲麻呂として大きな存在感を発揮している。
本作は、遣唐使として唐へ渡った空海と中国の詩人・白楽天が、怪事件の謎に迫る姿を描くエンタテインメント大作。世界的巨匠の作品に抜てきとなった阿部は「チェン・カイコー監督の作品に出演させていただける、自分にそんな機会が訪れるなんて思っていなかったので、びっくりしました。作品をすべて観直して、この監督のもと芝居ができるんだと思うととてもうれしかったです。ものすごくワクワクしました」と驚きと喜びとともにオファーを受け取ったという。
演じるのは、皇帝に仕えつつも、その妃である・楊貴妃に想いを寄せる阿倍仲麻呂役。台本を読んだ時には、「とても怖かった」と打ち明ける。「台本には『阿倍仲麻呂の楊貴妃を見つめる瞳は、15~16歳の少女のようにキラキラしている』と書いてあって。いまの自分の年齢でどうやったらこの表現ができるのか、とても悩みました。さらに最も恐怖だったのが、セリフが非常に少ないということ。正直、自分にとってハードルの高い役になるなと思いました」。
さらに「皇帝に信頼されていながらも楊貴妃に想いを寄せるということは、皇帝を裏切る行為。厳格な仕事をしていながら、そこを超えていく想いを表現しなければいけないわけです。とても難しい役だなと思いました」と幅広い役柄を演じてきた阿部にとっても難役だった様子。
大きな励みとなったのは、カイコー監督の存在だ。「カイコー監督が僕の芝居を気に入って、褒めてくださって。それはとてもうれしかったですね。カイコー監督は役者もやられているので、役者の気持ちもわかってくださる。誰もが集中して役に入っていけるような空気まで演出してくれるんです。蜷川(幸雄)さんもそうでしたが、巨匠と言われる方は役者の心や状況まですべてを見てくださっているんです」とカイコー監督に大きな愛を感じたそう。「一人一人に丁寧に熱心に、時間をかけて演出されていました。カイコー監督の現場は贅沢で極上の時間でした。一生の宝になったと思っています」。
日本・香港合作映画『孔雀王アシュラ伝説』で映画初主演を務めたのが、1990年のこと。「あの時は映画に出演すること自体がまだ2回目だったので、日本と香港の撮影スタイルの違いを認識することもできなかったんです。思い出してみると、とてもハードな撮影だったけれど、映画の撮影現場はこういうものなんだと思っていた」と苦笑い。
今回、世界的巨匠のもと中国での撮影を経験し「映画やものづくりの現場には、国境はないことがわかった」と充実の表情を見せる。「阿倍仲麻呂は、遣唐留学生として中国に渡って人々と触れあった方。もちろん彼のようにとまではいかないけれど、僕も中国での撮影を経験して、視野が広がったような気がしているんです。未知の世界だけに、『この役者さんはどんな芝居をするんだろう?』『現場はどう動くんだろう?』と、いつも以上に現場を注意深く見ていたように思います」。
「気づいたのは、ひとつのものに一丸となって向かっていく気持ちは、日本も中国も同じだということ。映画づくりを通して、異国の人々とも交流ができるんだという大きな経験をさせていただき、本当に幸せでした」と映画にかける日中共通のパワーを実感した阿部寛。キラキラとした瞳で語るその姿は、さらなる意欲と情熱にあふれていた。
取材・文/成田 おり枝