『リメンバー・ミー』監督が祖母に感謝「オスカー受賞を予言してくれていた」
第90回アカデミー賞で、長編アニメーション賞と主題歌賞をW受賞し、ディズニー/ピクサーの最高傑作と呼び声の高い『リメンバー・ミー』(3月16日公開)。本作を手掛けたリー・アンクリッチ監督は、『トイ・ストーリー3』(10)でも同2部門の賞に輝いている。来日したアンクリッチ監督を直撃し、本作に込められた家族愛について話を聞いた。
主人公は、ミュージシャンになることを夢見る少年・ミゲル(石橋陽彩)。しかし、ミゲルは、ひいひいおばあちゃんのイメルダ(松雪泰子)の代から受け継がれてきた“音楽禁止”という掟のため、1人でひっそりとギターを手に歌う毎日を送っていた。
そんなミゲルがひょんなことから、先祖の魂を迎えるお祭り“死者の日”に、カラフルな死者の国へと紛れ込んでしまう。彼はそこで陽気だけれど孤独なガイコツ、ヘクター(藤木直人)と出会い、彼とともに一族の秘密を知ることになる。
悲劇的な過去をもつヘクターを、ペーソスあふれる明るいキャラクターに作り込んだのには理由があるそうだ。
「コメディアンの多くは、悲しみの中からユーモアを見つけたり、傷ついたことをユーモアに変えたりする。ヘクターの場合もそうで、家族とのつらい過去に対してメソメソせず、ユーモアという殻で自分を守っているんだ。物語が展開していくにつれ、その殻がむけていくように、彼の人間性が表れていく」。
日本のお盆とも共通する“死者の日”は、メキシコの伝統的な祭礼行事から着想を得たそう。ユニークなのは、死者が自分の先祖に忘れられると、2度目の死を迎えてしまうという設定だ。
「2度目の死という概念は、もともとメキシコで根付いている考え方だ。メキシコには3つの死がある。1つ目は心臓が止まった時、2つ目は火葬や土葬の時、3つ目は自分のことを憶えている生者がいなくなった時だ。そうならないように、愛するものを決して忘れないようにしたい。これこそ、本作が描こうとしているテーマだと感じたよ」。
主題歌「リメンバー・ミー」も含め、何世代にもわたる家族の絆が紡がれた本作。アンクリッチ監督は「この映画を手掛けたことで、家族の物語を子どもたちや孫たちに伝えていくことの重要さを改めて実感したし、自分も先祖の話をもっと聞いておくべきだと思った」と述懐する。
監督に「もしも死者と会えるのなら、誰と会いたいですか?」という質問を投げると、「有名人なら…」と映画監督のスタンリー・キューブリックの名を挙げた。
「これを言うとみんな驚くんだけど、僕が映画作家になりたいと思ったのは、キューブリック監督の存在があったからだ。いまもキューブリック家の方々とは仲良くさせてもらっているけど、スタンリーには一度も会えなかったので、もしも会えたらいろんなことを話したい」。
ちなみに一番好きなキューブリック監督作は『シャイニング』(80)だそう。
「ピクサーの監督もいろんな映画を観るし、アニメだけでなく実写の監督からもインスピレーションを受けている。確かにピクサーの映画は、大人も子どもも楽しめる作品にするというミッションはあるけど、僕自身はホラー映画も大好きさ。例えば『トイ・ストーリー3』にはちらっと怖い要素を入れ込んだりしているしね」。
本作がありふれた予定調和の感動作に収まらず、大人をうならせるミステリー的な要素も内包しているのは、アンクリッチ監督ならではの趣向かもしれないと、おおいに納得。
続いて「身内で会いたい人は?」と聞くと「すごく仲が良かった祖母かな」と答えてくれた。
「祖母が亡くなってから25年くらい経つけど、もしも会えるのなら一緒に時間を過ごしたい。この映画も、彼女に会いたいと思いながら作ったんだ。祖母は僕が関わった『トイ・ストーリー』の制作中に亡くなったから、僕の手掛けた映画を1本も観てもらえなかった」。
アンクリッチ監督は、そんな祖母とのすてきなエピソードを明かしてくれた。「祖母は僕が映画を作りたがっていたのを知っていて、『あなたはいつかステージに立ち、アカデミー賞を受賞するわよ』と予言してくれていた。だから『トイ・ストーリー3』で初受賞した時のスピーチで、祖母の名前も出して心から感謝したよ。きっとあの場にいてくれたんじゃないかな」。
取材・文/山崎 伸子