若き皇太子主導で35年ぶりに映画館解禁のサウジアラビアに、ハリウッドはどこまで参入出来る?
32歳のムハンマド・ビン・サルマン皇太子が近代化改革を主導し、サウジアラビアは今年に入って35年間に及んだ映画館の営業禁止措置を解除した。同国の文化情報省が発表した情報によると、2030年までに国内に合計2000のスクリーンを擁する300館の映画館が開館するそうだ。この改革は雇用機会の増加等、サウジアラビアにおよそ25兆円以上の経済効果をもたらすとも言われている。
今年2月には、サウジアラビアの総合娯楽局(GEA:General Entertainment Authority)が、政府と民間投資団体から娯楽産業におよそ68兆円を投資すると発表。そのうち映画と芸術には約11兆円が割り当てられる。専門家の中には、サウジアラビアは2030年までに世界でトップ10に入る映画市場に成長すると予想する者もいるほどだ。
これをうけ、ハリウッドの映画産業はサウジアラビアを中国に次ぐ新たな開拓地として着目している。サウジアラビアは中東外の劇場参入は数社に制限する予定だそうだが、既に米国の大手劇場チェーンのIMAXやAMCが劇場開業に向けて始動しているようだ。
米バラエティが報じた記事によると、サウジアラビアの人口およそ3000万人のうち、大半が25歳以下だという。全米劇場所有者協会(National Association of Theatre Owners)の理事長兼CEOのジョン・フィシアンは「サウジアラビアは巨大なマーケットになる可能性がある。国民の大半は映画を観たいと欲する、可処分所得のある若者だ」と語る。
ハリウッドの映画産業は海外の興行成績を映画のコンテンツに反映させる傾向が強く、最近は映画スタジオ各社が、言葉の壁を越えてヒットが確実なアクション映画の製作と配給に力を入れているのが顕著に分かる。
例えば『アイアンマン3』(13)にはファン・ビンビン、『キングコング:髑髏島の巨神』(17)にはジン・ティエンといった中国人女優を出演させて、中国市場で最大限成果が残せる工夫を製作段階で行ったりもした。サウジアラビアの映画市場が成長するにつれ、サウジアラビア人スターがハリウッド映画に出演、とまではいかなくとも、劇中の中東文化やイスラム社会の描かれかたには変化があるかもしれない。
しかしハリウッドのサウジアラビア進出は、他国に比べて大きな課題が残る。保守的なイスラム教社会で、性的描写や他宗教の要素を含むコンテンツには厳しい規制がかかる事は間違いない。実際、隣接国のクウェートで上映されるハリウッド映画のほとんどは、規制によるシーンの削除でどの作品も大体上映時間1時間程度になってしまうそうだ。おそらくサウジアラビア国内で公開されるハリウッド映画のほとんどは、ファミリー系やアニメ作品になってしまうのではないだろうか。
一方で、すでにサウジアラビアの若者の多くは、人気のハリウッド映画をバーレーンやドバイの映画館を訪れたり、違法でダウンロードしたりして鑑賞している。そのような若者をいかに国内の映画館に動員させるかも、これからの課題のひとつだ。
ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は3月から就任後初の外遊に出かけており、ニューヨークやシリコンバレーを訪れたそうだ。その際にはビル・ゲイツやアップル、グーグルの重役に加えて、ハリウッドの大手タレント事務所ウィリアム・モリス・エンデヴァー・エンターテイメントの共同CEOのアリ・エマニュエルと、映画プロデューサーのブライアン・グレイザーらと会合する予定があったと言われており、どんな話し合いがなされたのかに注目が集まっている。
未開拓のエンタテインメント市場として注目されるサウジアラビアが、今後ハリウッドの映画界にどのような影響をもたらすか、今後も注視したい。
LA在住/小池かおる