『孤狼の血』の原作者・柚月裕子が映画を大絶賛するも「1つだけ困ったことが…」
役所広司や松坂桃李がマル暴(暴力団対策を行う警察組織)の刑事を演じた『孤狼の血』(5月12日公開)は、しびれるほど熱くて男くさい。原作者の柚月裕子先生が「『仁義なき戦い』なくしてこの作品は生まれなかった」と語るとおり、男たちの暴力や欲望、信頼や裏切りなど、東映によるアウトロー映画のDNAを受け継ぐ傑作に仕上がった。完成した映画を激賞する柚月先生に、映画ならではの魅力についてうかがった。
暴力団対策法成立直前である昭和63年の広島にある架空都市・呉原を舞台に、役所演じるベテラン刑事・大上章吾が、暴力団を相手に、正義と非道スレスレの危険な捜査に挑む。松坂は大上に翻弄されつつも、共に捜査をしていく新人刑事・日岡秀一役を演じた。
巧妙に計算された小説は、後半で各章のストーリーをつなぐ重要事項が明かされる。骨太な警察小説でありながら、鮮やかなミステリーにもなっているが、映画では脚本を務めた池上純哉が独自のアレンジを加えた。
「活字でしか成り立たないミステリーを、どのように映像で表現されるのか、すごく興味を持っていました。でも、準備稿を読ませていただいた時、『ああ、なるほど!』と思ったんです」と柚月先生。
メガホンをとったのは、『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)の白石和彌監督だ。「白石監督の『日本で一番悪い奴ら』(16) を拝見した時、一切妥協をされない監督だと思いました。なによりも驚いたのは、普通ならぼかして見せないようにするシーンを敢えて隠さずに突きつけているところです。『俺はこれが撮りたいんだ!』と、勝負に出ているところがすごいと思ったので、『孤狼の血』を撮られると聞いた時も、最初から全幅の信頼を置いていました」。
柚月先生は、完成した映画を観て、映像ならではの台詞回しに魅力を感じたと言う。「役者の方々の演技あってのことだと思いますが、『台詞はここまで削っていいんだ』と実感しました。実は、続編の『凶犬の眼』や、完結編の『暴虎の牙』を書く時、参考にさせていただいたんです」。