役所広司の“正義”とは?『孤狼の血』に込めた想いと松坂桃李への期待を語る!
昭和63年の広島を舞台に繰り広げられる男たちの熾烈なドラマを、かつて日本映画界を席巻した“東映実録路線”を想起させる熱量で描きだした白石和彌監督の『孤狼の血』(公開中)。本作で主人公のベテラン刑事・大上章吾を演じた役所広司に直撃した。
「この企画を頂いた時に、なんか懐かしいなあという気分になりました」と振り返る役所は「昔の日本映画にはこういうテイストの映画がたくさんありましたが、いつの間にか消えていったような気がします。こういう映画がもう少し増えれば、日本映画はいまよりもさらに活気付くのではないかな」と日本映画界の未来にも思いを馳せる。
役所が演じる大上は、所轄署に所属する“マル暴”の刑事。暴力や放火、賄賂などなんでもありの破天荒な捜査方法で暴力団からも一目置かれる存在だ。「イメージとしては“汚れた天使”のつもりで演じました」と、これまで演じたことのないようなダーティな役柄について明かす役所。
「柚月裕子先生が書いた原作では、大上はすごくカッコいいキャラクターなのですが、脚本ではカッコいいだけではなく、人間くさい愛嬌のある人物に描かれていたように感じました。あまりカッコいいと演じるのが照れくさいですからね(笑)」。
そんな大上とバディを組み、暴力団の抗争に巻き込まれていく新人刑事・日岡を演じているのは、いまが伸びざかりな俳優、松坂桃李だ。「松坂くんとは以前も共演したことがありますが、もうすっかりベテランですからね。安心して一緒にシーンを作っていくことができました」と笑顔で語る。
現在の松坂と同じ年齢だったころ、役所はまだ駆けだしの若手俳優の1人。初主演ドラマ「宮本武蔵」(84)で注目を集め、伊丹十三監督の『タンポポ』(85)に出演するなど、徐々に活躍の幅を広げていたころだ。
「当時の僕と比べたら、松坂くんははるかにたくさんの仕事をしているし、本当に上手い俳優です。最近では様々な役柄に挑戦していて、30代に向けて役の幅をさらに広げようという思いが強く感じられますね」と微笑み、「彼は将来、すばらしい俳優になってくれると信じています」と期待を込めて語った。
また自身の今後のキャリアについても「おもしろい役と出会えることを我慢強く待ち続けていきたい」と、さらなる高みを目指す意欲を見せた。最後に、本作のテーマでもある“正義”とはなにか訊ねてみた。すると「“悪”と表裏一体のものです。本当の“正義”というものは、それぞれが持っているものだと思います」と力強く回答。そして「本作を通して、それぞれの組織の中にある本当の“正義”を受け止めながら、人間の生き方の“熱”を感じてもらえるとうれしい」とメッセージを送った。
取材・文/久保田 和馬