カンヌ国際映画祭、開催後半の話題作を紹介

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カンヌ国際映画祭、開催後半の話題作を紹介

『太陽にやかれて2』の上映でコンペ作品の試写がすべて終わり、後は授賞式を待つだけになったカンヌ映画祭。後半の話題作を紹介しよう。

後半で日報の評価が高いのは既に紹介したグザヴィエ・ボーヴォア監督の『UN HOMMES ET DES DIEUX』。21日に上映されたラシッド・ブシャール監督「HORS LA LOI』(アルジェリア人の三兄弟がそれぞれの方法で独立戦争にかかわっていく物語。右派政治家に反仏映画と中傷され上映会場は物々しい警備体制が取られた)も、上映後の拍手が力強く、賞に絡むことを期待されている。

映画祭開始直前にコンペ入りしたケン・ローチ監督の『ROUTE IRISH』(バクダードで警備会社の傭兵をしていた兄弟だが、弟が死に兄はその背景を調査し始めるという物語)も期待されたが、いつもとはタッチの違う作品に戸惑いも多く、評価を伸ばしていない。

アジア勢ではイ・チャンドン監督『POETRY』(孫息子と暮らす祖母が詩作教室に通い始める。孫の同級生が自殺し、その事件に孫が関係していることが分かるのだがという話)の評判がいい。

アメリカ映画で唯一のコンペ入りを果たし、後半の人気作になるかと思われたダグ・リーマン監督『FAIR GAME』(大量破壊兵器も核兵器の開発もなかったという記事を書いた報復に妻がCIA職員だとばらされた夫婦の巨大な権力に対する戦いを描く)も、意外に地味な作品ながら好感が持てる作品だった。

アッバス・キアロスタミ監督の『COPIE CONFORME』(元夫婦が再会し、思い出の場所に出かけるが、ふたりの仲は元に戻らない)のストーリー展開には首をかしげる記者も少なくなく、日報の評価も今一つ。

アレハンドロ・ゴンザレス・イリニャトゥ監督が新しい脚本家と組んで送りだした『BIUTIFUL』(がんに侵されたシングル・ファザーの物語)は評価が分かれている。

最後のニキータ・ミハルコフ監督の『太陽にやかれて2』(強制収容所から脱出した主人公は対独戦のなか、娘を探し、娘も戦場で父を捜す)は続編のさらに第一部ということがわかり、賞からは外れるだろう。

活劇から始まった今年のカンヌだが、どの作品にも必ず”死”が描かれる。意味を求める死、意味のない死。たくさんの死体、一つの死体。ハッピーエンドは、ひとつとしてない。希望もない。

世界的不況を引き起こしたアメリカのバブル崩壊を追っていくドキュメンタリー『INSIDE JOB』と『ウォール街2』、核兵器の廃絶に向けて核兵器の歴史と現在を描くドキュメンタリー『COUNTDOWN ZERO』と『FAIR GAME』にはアフガン・イラク戦争につながる『ROUTE IRISH』も関係がある。さらに現在の“対テロ”戦争に対して植民地との関係や、それぞれに自らの正義を言い立て、相手をテロリストと呼ぶことに対して抗議する『HORS LA LOI』『UN HOMMES ET DES DIEUX』もある。事実を挟んで両方の言い分を映画で見せてみるという試みがなされたのが今年のカンヌだったのではないか。

そこでふと考えた。男と女の“覆水盆に返らず”な関係を描いたドラマ、と見せて、実はキアロスタミ監督、どうにもお互いの思いが通じ合わない東と西の世界、キリスト教世界とイスラム世界、アラブ世界とユダヤ世界をメタフィジカルに描いたのではないか。考えすぎかもしれない。

さて、残るは授賞式。ティム・バートン審査委員長のもと、審査員たちはどんな作品を選ぶのだろう。今頃彼らは映画祭の用意した山荘にこもり審査の議論を始めているのではなかろうか。楽しみなものである。【シネマアナリスト/まつかわゆま】

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