羽生善治竜王&瀬川晶司五段が明かす「棋士になるために欠かせないこと」とは?

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羽生善治竜王&瀬川晶司五段が明かす「棋士になるために欠かせないこと」とは?

将棋界に奇跡をもたらした異色の棋士・瀬川晶司五段の自伝的作品を映画化した『泣き虫しょったんの奇跡』(9月7日公開)のトークショーが「第52回東急将棋まつり」を実施中の東急百貨店東横店で開催され、羽生善治竜王、瀬川五段が出席した。

本作は、「26歳の誕生日を迎えるまでに四段昇段できないものは退会」という新進棋士奨励会の規定により、一度は奨励会を退会して棋士への夢を諦めた主人公が、35歳にしてプロ編入を目指すまでを描く人間ドラマ。この日の司会は、山田久美女流四段が務めた。

自身の物語が映画となった瀬川五段だが、自分の役を松田龍平が演じていることについて「僕は松田優作さんが大好きだったので、息子さんにやっていただけてすごくうれしかった」と笑顔を見せつつ、「でも(自分を演じるには)ちょっとかっこよすぎる。それが心配」と茶目っ気たっぷりに語り、会場の笑いを誘った。

すでに映画を観たという羽生竜王は「将棋の世界や、瀬川さんの人となりを深く調べて演じているんじゃないかと思った」と松田の演技に感服。瀬川五段も「僕と松田さんでは姿かたちはぜんぜん違うんですが、僕の内面も見事に演じてくださった。交流のある人が映画を観て『松田さんが瀬川くんにしか見えなかった』と言っていた。役者さんはすごい」と驚きを隠せなかった。

アマチュアからプロへの編入という、史上初の偉業を成し遂げた瀬川五段。「編入試験を受けるまでは、いろいろな方に応援していただいた」と道のりを振り返り、「羽生先生のおかげでもある」と告白。「プロ編入についてまだ棋士内でもめている時に、羽生先生が『これは議論すべき問題。拓かれてもいい道だ』とおっしゃってくださった。それで流れが変わった」と羽生竜王の言葉が大きな後押しとなったそう。瀬川五段が「ありがとうございました」とお礼を述べると、羽生竜王は「いやいや。瀬川さんを応援したいという方がたくさんいたことが、作品を観てもわかる」と照れくさそうな笑顔。会場からも大きな拍手が上がっていた。

厳しい世界に身を置く2人だが、「棋士になるための資質は?」と聞かれるひと幕も。羽生竜王は「子どものころから長い時間をかけてやっていかないといけない。着実に積み上げていくことは、必要不可欠なこと」と回答。「継続することって大変。向かっていく気持ちを維持し続けていくことは大事なこと」と話す。一方の瀬川五段は「腐ってしまったらダメですよね。次の日から切り替えてできるようにならないと」とコメント。貴重なトークに、会場に駆けつけた子どもたちも熱心に聞き入っていた。

取材・文/成田 おり枝

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